ドモ県

ドモ県、またはヤートンとも呼ばれるこの地域は、中華人民共和国チベット自治区シガツェ市に属し、その地理的な特徴から歴史的に重要な役割を担ってきました。特にインドとブータンの国境に接するその位置は、南東と南西の両方に対して戦略的な意味を持っており、交通の要所としての役割を果たしています。

地理的特徴と交通の要衝

ドモ県は、ラサからシガツェ市、ギャンツェ県を経由し、シッキムのガルトクへと続く重要な交通路の入り口に位置しています。この交通路は、古くからこの地域と周辺地域を結ぶ重要な役割を果たしており、交易や文化交流の動脈としての機能を担ってきました。そのため、ドモ県は、単なる地理的な位置だけでなく、歴史的な出来事においても重要な舞台となっています。

歴史

19世紀末、この地は国際的な注目を集めました。1893年、イギリスは清との間で条約を締結し、その結果、翌年からドモ県に市場を開設する権利を獲得しました。これは、当時の国際的な力関係と、この地域の経済的な重要性を示す出来事と言えるでしょう。その後、この権利は1947年のインド独立に伴い、インドへと引き継がれました。

また、20世紀半ばには、チベットの歴史における重要な出来事の舞台ともなりました。1950年の中国チベット侵攻（チャムドの戦い）の際、ダライ・ラマ14世が一時的にこの地を避難場所として利用しました。さらに、その後も、この地域はチベットからインドへの脱出経路として利用され、多くの人々がこの地を経由して亡命を試みました。

行政区画

現在のドモ県は、2つの鎮と5つの郷によって構成されています。具体的には、以下の通りです。

鎮:
下司馬鎮
帕里鎮
郷:
下亜東郷
上亜東郷
康布郷
堆納郷
吉汝郷

これらの行政区画は、地域の発展と住民の生活を支える上で重要な役割を果たしています。

ドモ県は、その歴史、地理、そして文化において、多くの物語を秘めた場所です。国際的な紛争の舞台となり、宗教的な指導者の避難場所となり、多くの人々が新たな生活を求めて通過した場所でもあります。今後も、この地域は変化し続け、新たな歴史を刻んでいくことでしょう。

参考文献

ロラン・デエ『チベット史』春秋社、2005年10月。ISBN 4-393-11803-0。

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