ナキア

ナキア：新アッシリア帝国を揺るがした女性

ナキア（Naqi'a / Naqia、アッカド語：Naqī'a）、またはザクトゥ（Zakūtu）は、アッシリア帝国の歴史において特筆すべき女性です。アッシリア王センナケリブ（在位：前705年-前681年）の妻であり、その息子、後のアッシリア王エサルハドン（在位：前681年-前669年）をもうけました。彼女は単なる王妃以上の存在として、新アッシリア帝国に多大な影響を与えた人物として知られています。

類まれな影響力と存在感

ナキアは新アッシリア帝国の女性の中で最も詳細な記録が残されている人物です。芸術作品にその姿が描かれ、自身の建築事業を手がけ、廷臣からの書簡には賛辞が送られています。驚くべきことに、古代アッシリアにおいて、王以外の者が条約を作成し発布した唯一の人物でもあります。これは、彼女が政治的にいかに重要な人物であったかを示す強力な証拠です。

センナケリブとの関係と王妃の地位

ナキアがセンナケリブと結婚したのは、彼が王位に就く前、前713年頃にエサルハドンをもうけたことから、前705年以前であることは間違いありません。しかし、彼女が王妃の地位にあったのかどうかは議論の的です。アッシリアの王には複数の妻がいましたが、王妃は常に一人だけだったとされています。センナケリブにはタシュメトゥ・シャラトという王妃がいたことが分かっていますが、ナキアはエサルハドンの治世では「センナケリブの王妃」と呼ばれており、センナケリブの晩年に王妃になった可能性があります。センナケリブは前684年、年長の息子たちを差し置いてエサルハドンを王太子に任命しましたが、この決定にはナキアの働きかけがあったと推測されています。

エサルハドンの治世と権勢の絶頂

エサルハドンの治世の間、ナキアは「ummi šari（王母）」の称号を与えられ、絶大な権力を掌握しました。帝国全土に複数の邸宅を所有し、巨万の富を蓄え、エサルハドンの王妃エシャラ・ハンマトをも凌駕する富裕さを誇ったとされています。バビロニアのラヒラ周辺の所領を治めていた可能性も示唆されています。ナキアに関する最後の記録は、エサルハドン死後の前669年のもので、彼女は王族、貴族、そして全アッシリアに、孫であるアッシュルバニパルへの忠誠を誓わせる条約を作成しました。その後、彼女は公的な生活から退いたと推測されます。

名前と出自

ナキアは2つの名前を持っていました。アラム語、もしくは西セム系の言語に由来する「ナキア」と、アッカド語由来の「ザクトゥ」です。「ザクトゥ」はあまり使用されず、アッシリア王族の一員となった際に名付けられた可能性があります。どちらの名前も「純潔」「純粋」といった意味を持つと解釈されています。また、アビ・ラミ（またはアビ・ラム）という姉妹がいたことが分かっています。

センナケリブの治世におけるナキアの活動

ナキアの生年は前728年頃以降と推定されています。彼女はセンナケリブの妻として、前684年の王太子アルダ・ムリッシの解任とエサルハドンの王太子就任に影響を与えた可能性があります。エサルハドンが病気であったにもかかわらず、センナケリブは後継者を変更せず、ナキアが卜占や占星術を用いてエサルハドンへの支持を強化したという記録もあります。彼女はアルベラ市の預言者たちとも密接な関係を持っていたと考えられます。センナケリブ存命中に王妃であったかどうかは不明ですが、エサルハドンの治世中の文書では「センナケリブの王妃」として言及されています。これは、エサルハドンによって過去に遡って与えられた称号である可能性も示唆されています。

エサルハドンの治世とナキアの拡大する権力

エサルハドンが即位すると、ナキアの権力はさらに拡大しました。彼女はニネヴェに宮殿を建設し、その建設事業を記念する碑文を残しています。これは、通常は王が行う事業であり、王妃がこのような大規模な事業を手がけたことは異例です。エサルハドンの治世の大部分において、ナキアは「ummi šari（王母）」と呼ばれていました。アッシュルバニパルの治世後も、この称号を保持し続けました。彼女はアッシリア史上最も重要な太后であり、その存在感は歴然としています。

ナキアはニネヴェに加え、バビロニアを含む複数の都市に邸宅を所有し、バビロニアのラヒラ市を統治していた可能性があります。彼女は莫大な富を有し、神殿への寄付、王宮への馬の供給、大規模な人員雇用など、その活動は多岐に渡ります。彼女への手紙には、多くのへつらいが込められており、その地位の高さを示しています。ある法的文書では、「王の母、我が主の裁定は神々によるが如く最終的なものである」と記されており、これは通常王にのみ適用される表現です。彼女の健康や安全は、重大な関心事でした。手紙の内容は宗教的な事柄が中心ですが、政治的な事項も含まれています。彼女はエサルハドンのバビロン再建事業にも参加していた可能性があります。

晩年とザクトゥの条約

ナキアに関する最後の記録は、前669年末のアッシュルバニパルの即位前後のもので、彼女はアッシュルバニパルへの忠誠を要求する条約を作成しました。これは「ザクトゥの条約」と呼ばれ、王以外の人物によって作成された唯一の条約として知られています。アッシュルバニパルが即位した後、ナキアは公的な役割から退いたと見られます。彼女の死期については諸説ありますが、アッシュルバニパルの治世中に亡くなったと考えられています。

歴史におけるナキアの位置づけ

ナキアは、古代アッシリアにおける女性としては類まれな存在感と影響力を持っていました。新アッシリア時代の女性の中で最も記録が多く残されている人物であり、その影響力は計り知れません。彼女は芸術作品にもその姿が描かれており、王と同じ宗教的な姿勢をとっている様子が確認できます。これは、新アッシリア時代の王妃が単なる王の配偶者ではなく、公的な役割を担っていたことを示しています。

遺産と後世への影響

ナキアの業績は、後のグレコ・ローマの文学的伝統にも影響を与えたと考えられています。セミラミスやニトクリスの伝説は、ナキアの事跡を反映している可能性があります。特に、ニトクリスのバビロン建設の伝説は、ナキアのバビロニアでの活動やエサルハドンのバビロン再建事業との関連性が指摘されています。ナキアの人物像については、無私の母として評価する学者もいれば、野心的な女性として評価する学者もいます。

結論

ナキアは、新アッシリア帝国を代表する重要な女性人物であり、その生涯と業績は、古代アッシリア社会における女性の役割や権力構造を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。彼女の存在は、単なる王の妻を超えた、政治的、宗教的、経済的な影響力を持ち、その活動は帝国の興亡に大きく関わっていたと言えるでしょう。今後の研究によって、彼女に関するさらなる知見が得られることが期待されます。

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