ナビス戦争

ナビス戦争：スパルタの終焉とローマの台頭

ナビス戦争は、紀元前205年から紀元前192年にかけて、ギリシアのポリスであるスパルタと、共和政ローマを中心とする連合軍との間で行われた戦争です。この戦争は、スパルタが実質的に独立国家としての地位を失うとともに、共和政ローマがギリシア征服の足掛かりを築く重要な転換点となりました。

戦争の背景：ナビス即位までのスパルタ小史

伝統的なスパルタは、二人の王と長老会、そしてエフォロイと呼ばれる役職によって統治されていました。しかし、ナビスが権力を握る以前から、その制度は崩壊しつつありました。クレオメネス3世はエフォロイを殺害して権力を掌握し、社会改革や軍事改革を実施して国力の強化を図りました。しかし、セッラシアの戦いでアカイア同盟に敗北し、クレオメネスはエジプトへ亡命。その後、リュクールゴスとマカーニダースによる共同統治を経て、傭兵部隊を率いるナビスが王位を奪取しました。

ナビスの改革：社会の変革と軍事力の再編

ナビスは、伝統的なスパルタの社会システムを打ち壊す大胆な改革を推し進めました。富裕層の財産を没収して解放奴隷に分け与え、反対勢力を抑え込みました。また、ヘイロタイを解放して軍隊に組み込み、スパルタ軍の再編を図りました。これらの改革は、スパルタの軍事力を強化する一方で、周辺ポリスとの関係を悪化させる要因となりました。

戦争の勃発：メッセニア侵攻と第二次マケドニア戦争

紀元前201年、ナビスはローマとの平和条約を無視してメッセニアに侵攻し、占領しました。また、第二次マケドニア戦争では、当初マケドニアと同盟を結びましたが、後にローマ連合軍側に寝返り、クレタ人傭兵を派遣しました。しかし、キュノスケファライの戦いでマケドニアが敗北すると、スパルタは再び孤立し、アカイア同盟との対立を深めていきました。

ナビス戦争：ローマの介入とスパルタ包囲戦

アカイア同盟は、アルゴスがスパルタの占領下にあることに危機感を抱き、ローマに介入を要請しました。紀元前195年、ローマ軍の指揮官フラミニヌスは、ギリシアのポリス代表者を集めて会議を開き、スパルタへの宣戦布告を決定しました。ローマ連合軍はペロポンネソスへ侵攻し、アルゴスを攻防戦の末に解放。さらに、ギュティオンを包囲し、スパルタ本国への侵攻を開始しました。

スパルタ軍はローマ連合軍の攻撃によく持ちこたえましたが、最終的にはナビスが降伏を申し入れました。フラミニヌスは、スパルタにアルゴスの放棄、ラコニア沿岸都市の自治権付与、海軍の解体、賠償金の支払いなどを要求する講和条約を締結しました。これにより、スパルタは領土を失い、軍事力を大きく制限されることとなりました。

戦争の終結：ナビス暗殺とスパルタのアカイア同盟編入

紀元前194年、フラミニヌスがイタリアへ帰還すると、アイトリア同盟はナビスを唆して失地回復を図らせました。ナビスは再び軍備を増強し、ギュティオンを包囲しましたが、アカイア同盟軍に敗北。紀元前192年、アイトリア同盟の兵士によってナビスが暗殺されると、スパルタは混乱に陥りました。アカイア同盟は、この機会を利用してスパルタに侵攻し、アカイア同盟の一員として組み込みました。これにより、長きにわたってギリシアで大きな力を持っていたスパルタの役割は終わりを告げました。

ナビス死後のスパルタ：アカイア同盟の一員として

アカイア同盟に編入されたスパルタは、亡命者の帰還や軍隊組織の再編など、多くの変化を経験しました。紀元前184年には、一時的にアカイア同盟の行政制度を破棄し、スパルタ式の制度を取り戻しましたが、かつての栄光を取り戻すことはできませんでした。ナビス戦争は、スパルタの独立を終わらせ、共和政ローマがギリシアを支配する時代への幕開けとなったのです。

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