ヘイロタイ

ヘイロタイ（Εἱλῶται / Heilôtai）は、古代ギリシアのスパルタにおいて、国家に所有されていた非自由民の身分を指します。その語源には、「沼沢地に住む人」や「捕虜にされた人」など複数の説がありますが、正確なところは不明です。ヘロットとも呼ばれます。

ヘイロタイの起源と境遇

ヘイロタイは、紀元前1500年頃からラコニア地方に居住していたアカイア人が、紀元前1100年頃にスパルタ人に征服された結果、奴隷身分に落とされたことに始まります。さらに、紀元前8世紀の第一次メッセニア戦争でメッセニアを征服した際にも、その住民がヘイロタイとされました。ヘイロタイは家族を持つことは許されていましたが、土地に縛られた国有奴隷として、農業に従事し、収穫物の一部をスパルタ人に貢納する義務を負っていました。彼らは代々奴隷身分を継承し、自由を奪われた存在でした。

スパルタ社会におけるヘイロタイ

スパルタ社会において、ヘイロタイは圧倒的な数で存在しました。約1万人のスパルタ市民とその家族に対し、約20万人のヘイロタイがいたとされています。この圧倒的な数の差は、スパルタ人が常にヘイロタイによる反乱の危険に晒されていたことを意味します。事実、メッセニア人はアリストメネスという指導者の下、紀元前7世紀（第二次メッセニア戦争）と紀元前5世紀（第三次メッセニア戦争）に大規模な反乱を起こし、スパルタを脅かしました。これらの反乱は、スパルタが市民皆兵の軍国主義政策を採用し、強力な軍隊を保持する大きな動機となりました。

ヘイロタイの役割と扱い

ヘイロタイは、スパルタ軍の遠征にも従軍しました。紀元前479年のプラタイアイの戦いでは、スパルタ人1人に対しヘイロタイ7人が従卒や輜重兵として参加しました。しかし、ヘイロタイは危険な作戦に投入されることが多く、しばしば見捨てられる存在でした。スパルタ人は、ヘイロタイの反乱を防ぐため、不満分子の摘発や、クリュプテイアと呼ばれる若年スパルタ人によるテロ行為を奨励し、恐怖による支配を徹底しました。さらに、毎年就任するエフォロイ（行政長官）は、ヘイロタイに対する宣戦を布告し、殺戮を正当化しました。ペロポネソス戦争中には、武勲を立てたヘイロタイを解放すると通達しましたが、これは欺瞞であり、解放を約束した2000名のヘイロタイは、実際には処刑されました。

ヘイロタイの存在が示唆するもの

ヘイロタイの存在は、古代スパルタ社会の複雑さと矛盾を象徴しています。彼らはスパルタ社会を支える重要な労働力でしたが、同時に常に抑圧され、虐げられる存在でした。この不均衡な関係は、スパルタの軍国主義化を加速させ、その社会構造の脆弱性を示すものでもありました。ヘイロタイの歴史は、古代社会における奴隷制度の負の側面を浮き彫りにするとともに、権力と支配の構造について深く考えさせられる教訓を与えてくれます。

備考

第二次メッセニア戦争後、メッセニア出身のヘイロタイはスパルタ人口の半分から3分の2に達したとされています。

参考文献

• - クセノポン『ギリシア史』『ラケダイモン人の国制』
• - プルタルコス『対比列伝』リュクルゴス篇
• - ブルクハルト『ギリシア文化史』第2章第2節

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