ナポリ楽派

ナポリ楽派（イタリア語: Scuola musicale napoletana）は、18世紀を中心にイタリア南部のナポリで発展した音楽家たちのグループを指し、特にオペラの分野で後世に大きな足跡を残しました。

音楽都市としてのナポリ

18世紀当時、ナポリはナポリ王国の首都として、パリやロンドンに次ぐヨーロッパでも有数の大都市でした。1739年にはシャルル・ド・ブロスによって「世界の音楽の首都」と評されるほど、音楽活動が非常に盛んだったのです。この時代、ナポリにはフィオレンティーノ劇場（1707年）、パーチェ劇場（1724年）、サン・カルロ劇場（1737年）といった複数の主要な歌劇場が次々と建設され、オペラ上演の中心地としての地位を確立しました。また、当時の高名なカストラートの多くがナポリで専門的な訓練を受けていたことも、この地の音楽的権威を高める要因となりました。

オペラ・セリア様式の確立

このような豊かな音楽的土壌を背景に、フランチェスコ・プロベンツァーレやそれに続くアレッサンドロ・スカルラッティといった作曲家たちが、新しいスタイルのオペラ・セリアを発展させました。ナポリ楽派が生み出したオペラ・セリアは、理想化された英雄や王侯貴族を主人公とするのが典型的なスタイルです。物語の進行は主にレチタティーヴォ（語り歌）で行われ、登場人物の感情の動きや内面は、技巧的で感動的なダ・カーポ・アリアによって表現されました。また、アレッサンドロ・スカルラッティは、急-緩-急という3つの部分からなるシンフォニア（イタリア風序曲）の形式を確立し、後の交響曲の発展にも影響を与えました。和声面では、「ナポリの六度」と呼ばれる特徴的な和音を多用したことも、この楽派のオペラを特徴づける要素の一つです。

傑出した作曲家たち

スカルラッティ以降も、ナポリ楽派からは多くの優れた作曲家が輩出されました。前期ナポリ楽派とされる時代には、ニコラ・ポルポラ、フランチェスコ・ドゥランテ、レオナルド・ヴィンチ、レオナルド・レーオらが活躍し、オペラ・セリアの様式をさらに洗練させました。ドイツ出身のヨハン・アドルフ・ハッセもナポリで学び、この様式を取り入れています。後期には、ニコロ・ヨンメッリやドメニコ・チマローザといった作曲家が登場し、レチタティーヴォをより音楽的に発展させ、アリアとレチタティーヴォが切れ目なく続く「番号オペラ」へと繋がる道を拓きました。

広範な影響

ナポリ楽派のオペラは、ピエトロ・メタスタージオやアポストロ・ゼーノといった高名な台本作家たちの作品によっても支えられました。その影響力はイタリア国内に留まらず、ヨーロッパ全土に広まりました。クリストフ・ヴィリバルト・グルックによるオペラ改革や、古典派の大作曲家であるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、そしてルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンといった後世の音楽家たちにも、ナポリ楽派の音楽様式や形式感覚は受け継がれ、西洋音楽史において重要な役割を果たしました。

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