ナルボンヌ包囲戦

ナルボンヌ包囲戦：フランク王国とイスラム勢力の激突

752年から759年にかけて、フランク王国のピピン3世率いる軍勢が、ウマイヤ朝残党が支配するナルボンヌ（現在のフランス南部）を包囲し、激しい攻防戦が繰り広げられました。ナルボンヌは、ガリア地方におけるイスラム勢力の最後の拠点であり、そこにはガロ・ローマ人や西ゴート人が居住し、フランク王国への服従を拒んでいました。

戦いの背景

当時、中東では750年にアッバース革命が勃発し、ウマイヤ朝が滅亡。ユースフ・イブン・アブド・アッラフマーンが統治するアンダルスは独立政権となっていました。751年、フランク王国の宮宰であったピピン3世は、教皇ザカリアスの支持を得てメロヴィング朝の王を廃し、自ら王位に就きました。これにより、フランク王国の勢力を一方向に集中させることが可能となり、その矛先は、イスラム勢力からのプロヴァンスとセプティマニアの奪還に向けられました。

ピピン3世の父、カール・マルテルもかつてこの地域の征服を試みましたが、ゴート人貴族の支持を得られず失敗に終わっていました。しかし今回は、ゴート人の伯アンセムンドに率いられたニーム、アグド、ベジールなどの都市がフランク王国側につきました。モーギオもフランク軍に降伏。しかし、ナルボンヌを統治していた伯ミロは、街に駐屯する強力なアンダルス部隊に牽制され、アンダルス政権側としてピピン3世と戦うことになりました。

長期にわたる包囲戦

752年、フランク王ピピン3世はナルボンヌを包囲。当初は短期間での陥落を見込んでいましたが、包囲戦は長期化しました。754年には、同盟者であったアンセムンドが、ライバルのゴート人勢力によって殺害されるという事件が発生し、フランク軍は大きな打撃を受けました。ニームでは反フランクのゴート人が反乱を起こしましたが、ピピン3世はこれを迅速に鎮圧し、アンセムンドの後継としてフランク人の長官を置きました。

ピピン3世と対立していたアクィタニア公ワイファリは、バスク人の部隊を率いてフランク軍の後方を脅かしました。さらに、フランク王国にはナルボンヌを海上封鎖できるような海軍が存在しなかったため、アンダルスからの補給船が自由にナルボンヌ市内に入ることができ、守備隊は長期にわたり包囲戦に耐えることができました。

ナルボンヌの降伏

しかし、アンダルスの情勢が不安定になるにつれ、ナルボンヌ市はアンダルスからの補給を受けられなくなっていきました。756年、イベリア半島の支配者であったユースフ・イブン・アブド・アッラフマーンは、サラゴサで発生した反乱を鎮圧した後、南方から侵攻してきたベルベル軍に対応しましたが、ムサラの戦いで敗北し、まもなく殺害されました。政権を奪取し後ウマイヤ朝を樹立したアブド・アッラフマーン1世は、北西イベリアやセプティマニアの情勢への対処を後回しにしたため、この地域は事実上指導者と支援者を失う形となりました。

759年、ナルボンヌ守備隊（ムスリムと非ムスリムの混合）は、アンダルス部隊を粛清した後、城門を開きフランク軍に降伏しました。これは、ピピン3世が直前にゴート人の法や自治の容認を約束し、セプティマニアのゴート人貴族が彼への忠誠に傾いたことを受けてのことでした。

戦いの後

ナルボンヌ陥落後、40年にわたりセプティマニアを支配してきたサラセン人（アラブ人とベルベル人）はイベリア半島に撤退しました。ピピン3世は、包囲戦開始の5年前にナルボンヌを逃れトロッス（オード県）に退いていたミローというゴート人に街を任せました。セプティマニアを平定したことで、フランク王国の矛先は、唯一残った反抗勢力であるアクィタニアのワイファリに向かいました。包囲戦後ルシヨンを押さえたピピン3世は、トゥールーズ、ルエルグ、アルビを攻撃し、ワイファリとの正面対決に臨むことになります。

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