ニオベー

ギリシア神話において、「ニオベー」という名は主に二人の異なる女性を指します。一人はペロポネーソス半島の初期の王であるポローネウスの娘であり、もう一人はリュディアの王タンタロスの娘です。特にタンタロスの娘ニオベーは、その悲劇的な運命の物語によって広く知られています。

ポローネウスの娘ニオベー

ポローネウスの娘としてのニオベーは、父ポローネウスとニュンペーのテーレディケー（またはキンナ）の間に生まれました。彼女はアーピスという兄弟を持ち、河神イーナコスの孫にあたります。このニオベーは、大神ゼウスが愛した最初の人間女性であったと伝えられています。ゼウスとの間に、ペロポネーソス半島の地名の由来となったとされるアルゴス（アクーシラーオスの説によればペラスゴスも）をもうけました。興味深いことに、ゼウスが人間女性との関係を始めたのがこのニオベーからであり、その16代後の子孫にあたるヘーラクレースの母アルクメーネーでその関係を終わらせたという伝承も存在します。

タンタロスの娘ニオベー

より有名なのは、リュディア王タンタロスと、巨人アトラースの娘ディオーネーの間に生まれた娘であるニオベーです。彼女は有名なペロプスの姉妹にあたります。テーバイの王であったアムピーオーンと結婚し、多数の子宝に恵まれました。しかし、その多産と繁栄ゆえに、神々、特に女神レートーに対して傲慢な態度をとったことから、恐ろしい神罰を受けることになります。このニオベーの悲劇は、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』にもすでに言及されるほど、古代ギリシアでは有名な物語でした。

神話によると、ニオベーはレートーに対し、自分の方が子供の数が多いことを自慢しました。さらに、レートーの二人の子供、光輝く神アポローンと月の女神アルテミスを軽んじ、自分の子供たちの方が優れていると公言しました。これを聞いて激怒したレートーは、自らの子供たちであるアポローンとアルテミスに命じ、ニオベーの子供たちをことごとく射殺させました。ニオベーは目の前で愛する子供たちが次々と倒れていく光景を前に、激しく嘆き悲しみました。彼女の流す涙は止まることがありませんでした。

深い悲しみに打ちひしがれたニオベーは、故郷であるリュディア地方へと戻り、シピュロス山でゼウスに懇願して自らの姿を石に変えてもらいました。あるいは、子供を失わせたことを後悔したレートーが、ニオベーを哀れんで石に変えたという説もあります。また、テーバイの地で石と化したニオベーが、風によって故郷へと運ばれたとも語られています。石になってもなお、ニオベーの姿をした岩からは涙のように水が流れ続けたと伝えられています。

ニオベーの子供たちの数や名前については、古代の文献によって様々な記述が見られます。ヘーシオドスは20人（息子10人、娘10人）、ヘーロドトスは5人（息子2人、娘3人）、ホメーロスは12人（息子6人、娘6人）としています。アイリアーノスはこれらの説に加え、ラソスの14人、ヘーシオドスの19人、アルクマーンの10人、ミムネルモスとピンダロスの20人といった説を挙げています。一般的には、子供は14人（息子7人、娘7人）であったとされることが多いです。

ローマの詩人オウィディウスは、7人の息子たちの名前をイスメーノス、シピュロス、パイディモス、タンタロス、アルペーノル、ダマシクトーン、イーリオネウスとし、彼らと7人の娘たち全てが神々の怒りによって命を落としたと述べています。一方、アポロドーロスは、息子たちの名前をシピュロス、エウピニュトス、イスメーノス、ダマシクトーン、アゲーノール、パイディモス、タンタロス、娘たちの名前をエトダイアー（ネアイラとも）、クレオドサ、アステュオケー、プティーアー、ペロピアー、アステュクライア、オーギュギアーとしています。さらに別の伝承として、息子アムピーオーンと娘クローリスの二人のみが死を免れたという説も伝えています。

紀元前6世紀頃の女流詩人テレシラは、生き残ったのはアミュクラースとメリボイアであるとし、夫アムピーオーンは射殺されたと語っています。パウサニアースもテレシラと同様にアミュクラースとメリボイアが助かったとしていますが、メリボイアはクローリスの別名であり、恐怖のあまり顔色が悪くなったため「青ざめた顔の女」を意味するクローリスと呼ばれるようになったと説明しています。ヒュギーヌスは息子8人、娘7人の名前を挙げ、クローリス一人だけが生き残ったという説を記しています。

この悲劇の後、ニオベーの夫アムピーオーンの最期にも諸説があります。自ら命を絶ったとも、アポローンの聖域を攻撃したためにアポローン自身によって射殺されたともいわれます。辛うじて命を拾ったとされる娘クローリスは、後にピュロス王ネーレウスと結婚したと伝えられています。

ニオベーの物語は、人間の傲慢さに対する神々の怒り、そして母の深い悲嘆の象徴として、後世まで語り継がれました。彼女の名は、小惑星「ニオベ」や、元素の一つである「ニオブ（ニオビウム）」の命名にも用いられています。

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