ニコチンアミド

ニコチンアミド

ニコチンアミド（Nicotinamide: Nam）は、ビタミンB3として知られるナイアシン（ニコチン酸）の構造を一部改変したアミド体です。水に溶けやすい性質を持つビタミンB群の一つで、別名ナイアシンアミド（Niacinamide）やニコチン酸アミドとも呼ばれます。このビタミンが不足すると、皮膚炎、下痢、認知機能障害などを特徴とする「ペラグラ」という病気を発症することが知られています。

体内では、ナイアシンもニコチンアミドも互いに変換される関係にあり、ビタミンとしての働きは基本的に同じです。しかし、薬理学的な特性には違いが見られます。ニコチン酸を高用量摂取すると、皮膚の紅潮やかゆみといった副作用や、コレステロール値を下げる作用が現れることがありますが、ニコチンアミドにはこれらの偶発的な薬理作用はほとんどありません。細胞レベルでは、ニコチンアミドやナイアシンは、エネルギー代謝や細胞の機能維持に不可欠な補酵素であるNAD⁺（ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド）やNADP⁺（ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸）の合成経路に取り込まれます。これらの補酵素は、体内の様々な酸化還元反応に関わる重要な役割を担っています。

ニコチンアミドの過剰摂取に関しては注意が必要です。成人において、一日あたり3グラムを超える量を継続的に摂取すると、肝臓に負担をかけ、肝機能障害を引き起こす可能性が指摘されています。

近年、ニコチンアミドは医薬品や化粧品の分野で広く利用されています。特に皮膚に対する様々な効果が注目されています。ニキビ（尋常性痤瘡）の治療においては、外用薬の成分として有効性が示されています。複数の臨床試験で、ニコチンアミドが抗生物質であるエリスロマイシンやクリンダマイシンと同程度のニキビ病変の減少効果を示した報告があります。また、皮脂の分泌を抑制する効果も認められており、特に脂性肌タイプのニキビに有効である可能性が示唆されています。ただし、クリンダマイシン単独療法と比較して、ニコチンアミドの追加による優位性が見られなかった研究結果もあります。

美容目的では、化粧品成分として多くの製品に配合されています。臨床研究では、ニコチンアミドを含む製剤を肌に塗布することで、シワの改善、色素沈着（シミ）や肌の黄色味の軽減、肌の弾力性向上といった効果が確認されています。特に、わきの下の色素沈着に対する効果を調べた試験では、偽薬よりも改善率が高く、ステロイド外用薬に比較的近い効果が示されました。また、トラネキサム酸との併用クリームが顔の不規則な色素沈着を減少させたという報告もあります。

日本では、医薬部外品の有効成分としてニコチンアミドが承認されています。2007年以降、「ニコチン酸アミド」として美白有効成分の承認を受けています。その美白作用は、メラニン色素を作る酵素であるチロシナーゼを直接阻害するのではなく、肌細胞（ケラチノサイト）へのメラノソーム（メラニンを含む小胞）の受け渡しを妨げることで色素沈着を抑制するというメカニズムによると考えられています。さらに、2018年からは「ナイアシンアミド」として、シワを改善する効果についても効能表示が承認され、エイジングケア成分としても広く認知されるようになりました。

皮膚への応用以外では、インスリン製剤への添加剤としての利用例もあります。ニコチンアミドが持つ血管拡張作用を利用し、インスリンの吸収を早める目的で、インスリン アスパルト製剤に配合されています。

このように、ニコチンアミドはビタミンとしての基本的な機能に加え、皮膚に対する多岐にわたる作用や、特定の医薬品における補助的な役割など、幅広い分野で活用されている化合物です。

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