ニューシェパード

ニューシェパード（New Shepard）

ニューシェパードは、アメリカの宇宙企業ブルーオリジン社が開発し運用している、垂直離着陸方式の再使用型宇宙船です。主に弾道飛行による短時間の有人宇宙旅行を目的として設計されています。その名称は、1961年にアメリカ初の宇宙飛行を達成した宇宙飛行士、アラン・シェパード氏に敬意を表して名付けられました。

飛行の概要

ニューシェパードのミッションは、地上にある専用射場から垂直に打ち上げられることから始まります。約2分半にわたるエンジンの燃焼によって高度を稼いだ後、エンジンが停止すると機体は慣性で上昇を続け、高度100kmの「カーマン・ライン」と呼ばれる宇宙空間との境界線を超えます。この間、搭乗者は約5分間にわたり無重力状態を体験することができます。最高到達点に達した後、乗員を乗せたカプセル部分は本体ロケットから分離され、パラシュートを開いて地上の着陸地点へゆっくりと降下します。一方、ロケット本体はエンジンを再点火して速度を制御し、打ち上げ地点近くへ正確に垂直着陸するという、革新的な再使用コンセプトを採用しています。1回のミッションにかかる時間は、およそ10分から15分程度です。

機体の製造はワシントン州シアトル近郊の工場で行われ、打ち上げはテキサス州カルバーソン郡にあるブルーオリジン社の専用施設「ローンチサイト・ワン」から実施されています。ブルーオリジン社は、Amazon.comの創業者であるジェフ・ベゾス氏の出資によって設立された企業です。

設計と技術

ニューシェパードは単段式のロケットとして設計されており、離陸から着陸までを1つの機体で行う垂直離着陸機です。その基本的な設計思想は、アメリカで過去に開発された垂直離着陸実験機DC-Xと共通する部分が多くあります。機体全体の質量は約54トン、搭載するエンジンの合計推力は約1000キロニュートン（kN）で、この能力により商業的な弾道飛行で高度100kmを超える宇宙空間を目指します。

推進システムの中核となるのは、ブルーオリジン社が自社開発した「BE-3」エンジンです。このエンジンは液体酸素と液体水素を燃料とし、特に垂直着陸時に重要な役割を果たす推力調整（スロットリング）機能を備えています。推力は最大490kNから最小89kNまで細かく調整することが可能です。燃料供給サイクルには、過去のロケットエンジン試験で実績のある「タップオフサイクル」が採用されています。BE-3エンジンの設計、開発、製造はすべてブルーオリジン社内で完結しており、ジョン・C・ステニス宇宙センターでの広範な燃焼試験を経て実用化されました。

開発の歴史

ニューシェパードの開発は着実に進められてきました。2006年11月には試験機による初飛行が行われ、87mの高度に到達しました。一時的な後退もあり、2011年8月末には別の試験機が飛行中に爆発するという失敗も経験しましたが、開発は続けられました。

現在のニューシェパードによる最初の打ち上げは2015年4月に行われ、機体は高度93.5kmに到達し、カプセルの分離と回収には成功しました。しかし、この時のロケット本体は油圧系のトラブルにより回収できませんでした。転機となったのは同年11月に行われた2号機の初打ち上げです。このミッションで機体はカーマンラインを超える高度100.5kmに到達しただけでなく、カプセルの回収に加え、ロケット本体の垂直着陸・回収にも史上初めて成功しました。この2号機は翌2016年1月にも再び宇宙空間へ到達し、垂直離着陸方式によるロケットの再使用能力を実証しました。

その後も試験飛行は続き、2016年6月にはカプセルのパラシュートが開かない状況を想定した安全試験なども実施され、打ち上げの様子が初めてライブ配信されるようになりました。2016年10月の5回目の打ち上げを最後に2号機の運用を終え、以降は改良された3号機、そして4号機へと開発が進みました。

特に重要な節目は2021年7月20日に行われた初の有人ミッション「NS-16」です。この飛行では、ジェフ・ベゾス氏自身とその弟、そして18歳と82歳という史上最年少・最高齢の宇宙飛行士を含む4名が搭乗し、無事成功させました。これにより、商業弾道飛行による宇宙旅行時代が幕を開けました。

開発過程での課題もあり、2022年9月には無人ミッション「NS-23」の際にエンジントラブルが発生し、機体は失われたものの、緊急脱出システムが作動してカプセルは無事帰還しました。この事故を受けて一時飛行が停止されましたが、安全対策の見直しなどを経て2023年12月に無人ミッションで飛行を再開しました。そして2024年5月には、事故後初となる有人ミッション「NS-25」が成功。この飛行では90歳のエド・ドワイト氏が搭乗し、再び史上最高齢記録を更新するなど、商業宇宙旅行の新たな歴史を刻み続けています。

2025年2月現在、ニューシェパードによる有人宇宙飛行はすでに10回以上実施されており、多くの人々が短時間ながら宇宙空間への旅を実現しています。その革新的な再使用技術は、将来の宇宙アクセスコスト削減にも貢献するものとして注目されています。

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