ネヘミア・グルー

ネヘミア・グルー（Nehemiah Grew, 1641年9月26日 - 1712年3月25日）は、イングランド、コヴェントリー出身の植物解剖学者、医師です。彼は、イタリアの医師マルチェロ・マルピーギと共に植物解剖学の創設者と見なされており、「植物解剖学の父」とも称されています。

グルーの業績は、植物学における顕微鏡の利用を大きく進めたことにあります。彼は、植物に性別があるという概念を提唱し、花、特に雄しべが植物の性器であると予見しました。この考えは、後にドイツの植物学者ルドルフ・ヤーコプ・カメラリウスによって実証されました。同時代のロバート・フックのような華々しさはありませんでしたが、グルーは顕微鏡を用いた詳細な解剖学的研究により、植物形態学に革命をもたらし、マルピーギと共に細胞説の基礎を築きました。

彼の主著である『植物解剖学』は、精密な解剖図を多数掲載し、「小胞」や「小嚢」といった用語を初めて使用したことで知られています。また、比較解剖学にも取り組み、『樹木比較解剖学』を著しました。この業績は植物の構造と機能を深く理解する上で重要な貢献となりました。

さらに、グルーは指紋の研究においても先駆者であり、1684年には『指紋に関する研究報告』を発表しました。この論文で、彼は皮膚紋様の独自性を科学的に記録し、指紋鑑定の基礎を築きました。彼の研究は、後の法医学や個人識別技術に大きな影響を与えました。

スウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネは、グルーの功績を讃え、シナノキ科の一種に「グレウィア」と名付けました。これは、グルーの研究が後世の科学者たちに与えた影響の大きさを物語っています。

生涯

1641年9月26日、グルーはイングランド、ウォリックシャーに近いコヴェントリーで、牧師であるオバディア・グルーの一人息子として誕生しました。1661年にケンブリッジ大学のペンブルック・カレッジに進学しましたが、医学博士号を取得するためにケンブリッジ大学を中退し、ライデン大学で医学を修めました。

ライデン大学卒業後、故郷のコヴェントリーで開業医として働いた後、ロンドンでも開業医として活動しました。医師としての業務を行う傍ら、植物解剖学の研究にも熱心に取り組みました。

1670年、グルーは同じくイングランド出身の牧師であり、自然哲学者でもあったジョン・ウィルキンスの推薦で王立協会に迎えられ、1671年には正式な会員となりました。1677年には王立協会の幹事に就任し、科学の発展に貢献しました。

ネヘミア・グルーは1712年3月25日、ロンドンでその生涯を閉じました。彼の遺した業績は、植物学、医学、そして法医学の分野において、今なお大きな影響を与え続けています。

脚注

参考文献

Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Grew, Nehemiah". Encyclopædia Britannica (英語) (11th ed.). Cambridge University Press.
佐竹義輔、清水基夫、亘理俊次 著、相賀徹夫 編『万有百科大事典 19 植物』（初版）小学館〈日本大百科全書〉（原著1972年10月10日）。 
林達夫 編『世界大百科事典 8 きらーくん』（1972年版）平凡社〈世界大百科事典〉（原著1972-4）。 
鈴木泰二 編『グランド現代百科事典 10 キリスークロヘキ』学習研究社（原著1983-6-1）。 
* 澤田嘉一 編『大日本百科事典 6 きりすーけん』小学館（原著1967年11月20日）。

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