ネワール族

ネパールのカトマンズ盆地とその周辺地域に居住する民族。ネパール語でネワール（नेवार）やネワ（नेवा）とも呼ばれ、盆地一帯の豊かな歴史遺産と独自の文明を築き上げてきました。

ネワール族は、主にインド・アーリア系とチベット・ビルマ系の人々が長い歴史の中で融合して形成されました。共通の言語としてネワール語（ネパール・バサ語、チベット・ビルマ語派に属する）を用い、ヒンドゥー教と仏教を信仰する人々が混在し、独自の言語的・文化的コミュニティを形成しています。ヒマラヤ山脈の他の地域では見られない高度な分業制度や洗練された都市文化が発達しており、古来からの伝統や儀式が現代まで受け継がれています。彼らはネパールの古来の宗教、文化、文明の重要な継承者とされており、文化、芸術、文学、貿易、農業、料理といった幅広い分野で顕著な貢献をしてきました。国際連合開発計画による人間開発指数では、ネパール国内で一貫して経済的および社会的に最も進んだコミュニティの一つと評価されています。2011年のネパール国勢調査によると、ネワール族の人口はネパール全土に1,321,933人おり、国内で6番目に多い民族集団です。

かつてカトマンズ渓谷とその周辺は、ネパール・マンダラとして知られるネワール族による古代連合国家（旧ネワール王国）でした。ネパール国内の他の民族やカースト集団とは異なり、ネワール族は民族的に極めて多様であり、古代の政治体の特性を残す数少ない共同体の一つです。ネパール・マンダラに先史時代から居住していた多様な民族の子孫であるため、人種、カースト、宗教における異質性は特筆すべきものです。異なる時代に接触したリッチャヴィ族、コーサラ族、マッラ族といったインド・アーリア系の人々は、ネワール族の言語や慣習を取り入れながら最終的に融合していきました。これらの部族はヴェーダ文化も持ち込み、サンスクリット語、ヴェーダ的な社会構造、ヒンドゥー教などが人々の中に同化し、現在のネワール文化形成に繋がっています。ネパール・マンダラによる支配は、1768年のゴルカ王国による征服によって終焉を迎えました。

語源

「ネパール（Nepāl）」、「ネワール（Newār）」、「ネワール（Newāl）」、そして「ネパール（Nepār）」といった言葉は、同じ単語が音声学的に異なる形で表現されたものです。これらは異なる時代に使い分けられてきました。「ネパール」は文語（サンスクリット語）形式、「ネワール」は口語（プラクリット語）形式とされます。512年にカトマンズ西方のティスタンで発見されたサンスクリット語の碑文には「ネパールへの挨拶」という文言が含まれており、この単語がかつてネワール王国とネワール族の両方を指していたことを示唆しています。

「ネパールの住民」を意味する「ネワール」あるいは「ネワ」という言葉は、1654年のカトマンズの碑文に初めて登場しました。1721年にネパールを旅したイタリア人司祭イッポリト・デシデーリは、ネパールの原住民がネワールと呼ばれていると記録しています。このことから、「ネパール」が「ネワール」のサンスクリット語における音の変化形であるか、あるいは「ネワール」が「ネパール」の後に変形した形である可能性が考えられています。別の説では、「ネワール」や「ネワリ」という言葉は、PからWへ、LからRへの音の変化を経て形成された口語的な形であるとも言われています。日常会話では、最後の子音を落として母音を長くする音韻変化により、「Newā」や「Nepā」といった形で使われることもあります。

歴史

千年以上もの間、中央ネパールに栄えたネワール文明は、バラモン教（ヒンドゥー教）と仏教が共存する古典的な北インド文化の影響を強く受けています。特にマッラ朝時代には、ミティル語が宮廷でサンスクリット語と同等に扱われ、バラモン司祭をはじめ多くのミティル族がカトマンズに移住しました。このように北（チベット）と南（インド）双方からの人々の流入は、ネワール族の遺伝的・人種的多様性だけでなく、重要な文化や伝統を形成する要因となりました。

ネワール族の共通性はカトマンズ盆地で育まれましたが、その後の居住分布は様々な歴史的経緯をたどります。1769年にゴルカ王国が渓谷を征服するまで、この地に住む人々は常にネワール族か、その祖先を持つ民族でした。したがって、ネワール族の歴史は、近代国家ネパールが成立する前のカトマンズ盆地（ネパール・マンダラ）の歴史と深く結びついています。

ネワール族の歴史の始まりは、記録された史実と神話が混じり合っています。カトマンズ渓谷の創造神話はネワール族の間で語り継がれており、仏教経典である『スワヤンブプラーナ』にも言及されています。この神話によれば、かつてカトマンズは広大な湖で、その中央に蓮華が咲いていました。文殊菩薩が湖の水を抜いて陸地を出現させたとされますが、これに怒った龍王クリカが水害を起こしました。後に龍王は文殊菩薩に従い、衆生は救済されたと語られています。また、干ばつが12年間続いたという異なる版の神話も存在します。近年、この地域で湖底の痕跡が発見されていることなどから、地質学的な視点からもこの神話には一定の事実が含まれていると考えられています。

『スワヤンブプラーナ』によれば、文殊菩薩は水を抜いた後にマンジュパタンという都市を築き、ダルマカーラを最初の王としたとされます。現在のマンジパーがその場所とされ、文殊菩薩を祀る寺院があります。しかし、この伝説上の時代からゴパル時代の到来までの歴史は、明確な史料が見つかっていません。ゴパル朝に続く王の系図は、史書『ゴパララジャヴァムサバリ』に記録されており、ゴパル朝の後にはマヒスパル朝、キラット朝が続いたとされています。キラット王ジテダスティの治世に仏陀がネパールを訪れたという説もあります。

確実な歴史記録は、4世紀のリッチャヴィ朝（インド・アーリア系）から始まります。9世紀のデーヴァ朝を経て、12世紀から18世紀にかけてネワール族自身のマッラ朝が確立されると、カトマンズ盆地でネワール文化が最盛期を迎えます。ネワール語の文字であるネパール・バサ文字は、少なくとも1200年以上の歴史があると考えられており、901年の文献や1173年の碑文などにもその存在が見られます。

1767年のキリティプールの戦いから始まったゴルカ王国による征服以前、ネパール・マンダラの領域は北はチベット、東はキラット王朝、南はマクワンプール王国まで広がり、西はトリシュリ川を挟んでゴルカ王国と接していました。ネワール族によるカトマンズ渓谷とその周辺地域への支配は、プリトビ・ナラヤン・シャハ率いるゴルカ朝（シャハ朝）による1769年の盆地全体の征服によって終わりを告げました。

1769年のゴルカ朝による占拠後も、ネワール族は商人や官吏として宮廷内などで一定の影響力を保ち続けました。その後もネワール族は高度な文字文化を維持し、農業、商業、教育、行政、医療、法曹、宗教、建築、美術、文学など幅広い分野で活躍しています。特にネワール建築は、古代から近代にかけてアジアの仏塔建築に大きな影響を与えてきました。ネワール族の木彫や金属工芸の技術も世界的に有名であり、カトマンズ、パタン、バクタプルの美しい寺院や王宮の多くは、主にネワール族の建築家や芸術家によって建てられたものです。

経済

交易、産業、農業は長らくネワール経済の基盤を形成してきました。ネワール族社会は、儀式的および経済的に重要な役割を担う世襲制の職業集団で構成されています。商人、職人、芸術家、陶芸家、織工、染色工、農民など、様々なカーストの人々がそれぞれの重要な役割を果たすことで、複雑かつ繫栄した経済システムが構築されていました。多種多様な物品やサービスの提供を必要とする伝統的な文化も、経済の活性化に貢献しました。カトマンズ盆地の町や村は特定の製品の生産に特化し、都市部でありながら肥沃な農業は輸出可能な余剰を生み出しました。

さらに何世紀にもわたり、ネワール族の商人はチベットとインドを結ぶ貿易に深く関わりました。地元で生産された製品をチベットへ輸出し、特に米などの穀物は主要な輸出品でした。これらの品物はポーターやラバによって山道を運ばれたため、カトマンズ周辺には今も古くから続く交易路の痕跡を見ることができます。

18世紀以降、ネワール族はネパール全土に居住地を広げ、移住した人々は丘陵地帯に新たな交易町を開発しました。これらの人々は後に宝石商や小売商人として知られるようになりました。現代社会においても、ネワール族の職業は非常に多様であり、半数近くが農民ですが、商業に長けた人々や、政府の重要なポストに就く人々も多く存在します。

宗教

ネワール族の信仰は、主に仏教とヒンドゥー教です。歴史的には仏教が優勢だった時期もありますが、長年にわたるサンスクリット化（ヒンドゥー教文化の導入）を経て、両方の信仰が独自に融和した形で受け継がれています。ネワール族社会には独自の職業に基づくカースト制度があり、姓によってその人のカーストが判別できる仕組みになっています。

音楽・舞踊・食物

ネワール族は音楽、舞踊、そして豊かな食文化を楽しむことで知られています。伝統的な楽器を演奏する楽士がおり、伝統的なラブソングや、仮面を使った舞踊、コミカルな演劇などがあります。特に結婚式では、様々な種類の肉、野菜、果物が、カレー、ヨーグルト、スープ、米、そしてビールと共に豪勢に振る舞われます。

祭礼

ネワール族は年間を通じて多様な祭礼を行います。これらの祭礼はヒンドゥー教や仏教の祝日、あるいは収穫期に関連づけられています。例えば、「グンフ・プニ」と呼ばれる9日間の収穫祭は、ネワール族にとって最も重要な祭日の一つです。この期間中には穀汁を飲んだり、高僧から祝福を受けたり、田畑のカエルに餌を与えたりします。祭りの2日目には、その年に肉親を亡くした人々が牛に扮して町中を行進し、故人の冥福を祈ります。最終日はヴィシュヌ神の生まれ変わりとされるクリシュナ神の誕生日です。

「ヤンヤ・プニ」は、ヒンドゥー教の天界を司るインドラ神を祀る祭です。祭りの期間中にはヨーシンと呼ばれる祭柱が立てられ、ビールや酒が湧き出す大きな仮面で表現されるアカシュ・バイラブ神が祀られます。カトマンズ近郊の家庭では、インドラ神とバイラブ神の絵や像を飾ります。祭りの最後には、生きた処女神であるクマリが、雨の神インドラに感謝を表し、普段引きこもっている社を出てカトマンズの通りをかごに乗って巡行します。

多くの祭礼が、誕生、お食い初め、幼少期、思春期、結婚、高齢期、死亡といった人生の節目と深く関連しており、その性質は非常に複雑です。例えば、生理は不浄と見なされるため、ネワール族の少女は初潮を迎える前に「バーラ祭礼」と呼ばれる儀式を行います。これは、12日間、男性から離れ、日光の当たらない部屋で女性の親族だけと過ごすというものです。

ネワール族の人々が長寿を全うした場合、77歳から106歳の間にかけて「ジュンク」と呼ばれる5つの重要な祭礼を行います。これらは、77歳7ヶ月と7日、83歳4ヶ月と4日（生まれてから1000回目の満月の後）、88歳8ヶ月と8日、99歳9ヶ月と9日、そして最後に105歳8ヶ月と8日に行われます。これらの祭礼全てを経験した人物は神と同等に扱われるとされます。これらの儀礼は通常、夫の年齢に合わせて行われるため、妻も共に祭礼に参加します。そして、人生の最後の儀礼として葬式が行われます。

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