ハッティ人

ハッティ人：古代アナトリアの謎に包まれた民族

ハッティ人は、アナトリア半島中央部、かつて「ハッティの地」と呼ばれた地域に居住していた古代民族です。彼らは非インド・ヨーロッパ語族の言語を話していたと考えられており、その起源や文化は多くの謎に包まれています。

歴史

「ハッティの地」という言葉が歴史に登場するのは、紀元前2350年～紀元前2150年頃のアッカド王サルゴンの時代です。メソポタミアの楔形文字粘土板には、アッシリアやアッカドの商人たちがサルゴン王に援助を求める嘆願が記録されています。アッシリアの年代記では、「ハッティの地」という呼称は紀元前650年頃まで、約1500年もの間使用されました。

ヒッタイトの記録によると、サルゴン大王はルウィ人の王プルシュアンダのヌルダガルと戦い、サルゴンの後継者であるアッカドのナラム・シンはハッティ王パムバとその同盟国と戦ったとされています。

ハッティ人は「原ヒッタイト」と呼ばれることもありますが、これは不正確な呼称です。ヒッタイト人はインド・ヨーロッパ語族の言語（ネシリ語）を話しており、ハッティ人とは言語系統が異なります。ハッティ人は自分たちの王国を「ハッティの地」と呼び続けましたが、やがてヒッタイト語、ルウィ語などのインド・ヨーロッパ語族の言語を使用する人々との同化が進みました。

ハッティ人は都市国家や小規模な王国、公国を形成し、それぞれの都市は神権政治を行う公国として組織されていました。

言語

ハッティ人が使用していたハッティ語は、インド・ヨーロッパ語族に属さず、その系統は不明です。しかし、一部の研究者は、北西コーカサス語族との関連性を指摘しています。

ヒッタイトの楔形文字粘土板には、約150件のハッティ語テキストが見つかっています。ハッティ人の指導者たちは、古アッシリア語を書く書記を用いていたと考えられています。アナトリアの君主たちは、メソポタミアとの交易のためにアッシリア語を習得した書記を雇っていました。紀元前21世紀から紀元前18世紀にかけて、アッシリアはハッティの地に交易拠点（ハットゥム、ザルプワなど）を設けていました。

従来、アナトリアの人口の大部分は、インド・ヨーロッパ語族の言語を話す人々が到来する以前から居住していたハッティ人であると考えられてきました。しかし、インド・ヨーロッパ語族の言語を話す人々が、より早い段階からアナトリア半島中央部に共存していた可能性も指摘されています。ヒッタイト人による征服以前に、ルウィ語がハッティ語と共に話されていたという説も提唱されています。

ヒッタイト新王国の時代が近づくにつれ、ハッティ語は能格性を強めていきました。これは、ハッティ語が少なくとも紀元前14世紀末までは生きた言語であったことを示唆しています。

宗教

ハッティ人の宗教は、石器時代にまで遡ると考えられています。その中心は、地母神として神格化された大地への信仰であり、彼らは豊穣と安寧を願って地母神を崇拝しました。

ハッティ人の万神殿には、嵐の神タル（雄牛の姿）、太陽神フルセム/ウルセム（豹の姿）など、自然や様々な要素を神格化した神々が存在しました。チャタル・ヒュユクのレリーフには、女性が雄牛を生む図があり、これは地母神カタハ/ハンナハンナが嵐の神タルの母親であることを表しています。

ヒッタイト人は、後にハッティ人の神々の多くを自分たちの信仰に取り入れました。アナトリア先住民の宗教は、「大地から得られた水」という概念を中心に展開していたと考えられています。大地の水の神は、アナトリアの人々にとって特に重要な存在であり、他の多くの神々も大地と水に結び付けられていました。

ヒッタイトの伝説であるテリピヌと大蛇イルルヤンカシュの物語も、その原型はハッティ人の文明に遡るとされています。

人相

青銅器時代のアナトリアには複数の言語を話す社会が存在していましたが、研究者の中には、ハッティ人とヒッタイト人で身体的特徴が異なっていたと考える人もいます。カデシュの戦いを記録したエジプト側の記録には、鼻の高いハッティ人の兵士と、彼らを指揮するヒッタイト人の指揮官たちの外見の違いが記述されています。ただし、この説には疑問の声もあり、ヒッタイトのエリートと庶民の間で描写に違いが見られないという指摘もあります。

ハッティ人は、古代アナトリアの歴史において重要な役割を果たした民族であり、彼らの文化や宗教は、後のヒッタイト文明に大きな影響を与えました。しかし、その起源や言語など、未だ解明されていない謎も多く残されています。今後の研究によって、ハッティ人の実像がより明らかになることが期待されます。

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