ハリスコ新世代カルテル

ハリスコ新世代カルテル（CJNG）

ハリスコ新世代カルテル（Cártel de Jalisco Nueva Generación、通称CJNG）は、メキシコのハリスコ州を拠点とする犯罪組織であり、麻薬カルテルです。ネメシオ・オセゲラ・セルバンテス（通称「エル・メンチョ」）が率い、極端な暴力と広報活動を特徴としています。麻薬密売を主な収入源とし、構成員の訓練中に共食いを強要したり、ドローンやロケット推進手榴弾を使用したりするなどの残虐な行為で知られています。CJNGは、シナロア・カルテルと並ぶメキシコ麻薬戦争における二大勢力となっています。

概要

CJNGは、2009年にミレニオ・カルテル（シナロア・カルテルの下部組織）の幹部であったネメシオ・オセゲラ・セルバンテスとアビガエル・ゴンサレス・バレンシアによって創設されました。2023年現在、シナロア・カルテルと並び、麻薬戦争の二大勢力となっています。

歴史

CJNGは、2010年7月にシナロア・カルテルの幹部イグナシオ・コロネルがメキシコ治安部隊に殺害された後に台頭しました。コロネルの死後、ミレニオ・カルテルは分裂し、その結果、ネメシオ・オセゲラ・セルバンテス率いるCJNGとラミロ・ポソス率いるラ・レシステンシアが生まれました。この分裂により、両組織はロス・セタスと連携し、シナロア・カルテル支配地域を巡る抗争を開始しました。

初期の活動

CJNGが最初に関与したとされる事件は、2009年6月にカンクンの住宅街に放置されたトラック内で3人の男性の遺体が発見された事件です。遺体のそばには犯行声明と思われるメッセージが残されていました。

2011年のベラクルス虐殺

2011年春、CJNGはメキシコの麻薬カルテル全体に宣戦布告し、グアダラハラ市を制圧すると表明しました。しかし、同年夏にはシナロア・カルテルの指導者たちと会談し、ガルフ・カルテルやロス・セタスとの反セタス同盟を維持することで合意しました。さらに、シナロア・カルテルはミチョアカン州のテンプル騎士団カルテルと同盟を結び、CJNGと提携してハリスコ州のロス・セタスに対抗しました。

2011年9月20日には、ベラクルス州ボカデルリオで35人の遺体が発見される大量殺人事件が発生しました。被害者はロス・セタスのメンバーと当初見られていましたが、実際には軽微な犯罪に関与した者が一部で、残りは組織犯罪とは無関係でした。同月にはさらに、3つの異なる家で36人の遺体が発見され、CJNGによる犯行とされています。10月9日までの18日間で、ベラクルス州当局はCJNGによる100件の殺人事件を報告しました。

政府の対応

これを受け、メキシコ連邦政府はメキシコ軍を派遣し、「オペラティボ・ベラクルス・セグロ作戦」を開始しました。この作戦は、カルテル支配地域の回復、資金・軍事ネットワークの解体、警察の審査、安全対策の強化を目的としていました。

その後の状況

メキシコ軍の駐留にもかかわらず、抗争や殺人事件は収まらず、2011年12月にはバス襲撃事件で16人が死亡しました。2024年現在、CJNGはメキシコで最も危険な犯罪組織の一つとされ、シナロア・カルテルに次ぐ勢力を持っています。

現在の状況

CJNGは、2019年にテキサス州の議員によってテロ組織として指定する法案が提出されましたが、メキシコ政府の反対により撤回されました。カルテルは地域社会、その他の組織、政治を支配しており、特に2018年のメキシコ大統領選挙では130人以上の政治家候補者が殺害されたことが報告されています。また、2020年までに数千人の民間人がCJNGによって殺害されたと考えられています。

アメリカ麻薬取締局はCJNGを「最大の犯罪的麻薬脅威」とみなし、メキシコの元治安委員は「メキシコの国家安全保障に対する最も差し迫った脅威」と認識しています。

組織

上層部

CJNGは現在、創設者の一人であるネメシオ・オセゲラ・セルバンテス（エル・メンチョ）が率いていると見られています。アメリカ政府は彼の逮捕につながる情報に対して1000万ドルの懸賞金を、メキシコ政府は3000万ペソの懸賞金を提示しています。その他、エリック・バレンシア・サラザール（エル・85）など、複数の幹部が追跡されています。

戦闘部門

CJNGは、8つの武装部門からなる準軍事組織を創設しており、都市部や農村部の統制、敵対組織に対する作戦実行、親衛隊の結成など、さまざまな役割を担っています。各派閥には特定の任務が割り当てられ、専門的な訓練を受けています。

正規部隊

グアダラハラ都市圏には最も多くのコマンドが配置されており、ネメシオ・オセゲラ・セルバンテスの直接の運営者も存在します。その中には、過去にハリスコ州の要人暗殺を指示したとされる人物や、武器の取引に関与しているとされる人物も含まれています。また、北海岸や西シエラ地域、南東部地域など、地域ごとにリーダーが配置されています。

民兵組織

CJNGには、デルタ、最高司令部特殊部隊、Gente del Mencho、CJNG-エリートグループなど、さまざまな民兵組織が存在し、それぞれが特定の機能を持っています。デルタは都市部での活動、最高司令部特殊部隊はエル・メンチョの警護、Gente del Menchoは南海岸地域での活動などを担当しています。

女性構成員

CJNGは、他の麻薬カルテルと同様に多くの女性を活用しています。女性がカルテルに加わる理由は、ジェンダー暴力、家族の背景、恋愛関係、薬物摂取などさまざまです。カルテルでの女性の役割は、麻薬の製造、密輸、密売、誘拐、拷問、殺人、資金洗浄など多岐にわたります。CJNGと最も関係が深いとされる女性は、エル・メンチョの妻であるロザリンダ・ゴンサレス・バレンシアであり、初期から活動している殺し屋としてアナ・カレン・ブラボ・グティエレスが知られています。

フェミサイド

CJNGは、フェミサイド（女性殺害）を通じてメッセージを発信することがあります。殺害された女性の遺体の横にメッセージを残したり、男性の遺体にメッセージを残したりする事例が報告されています。

メキシコでの活動

CJNGはメキシコ国内でシナロア・カルテルに次ぐ勢力を誇り、メキシコ軍や警察とも戦闘を続けています。特にハリスコ州では、麻薬販売や闇市場での支配力を強めています。また、ナヤリット州やコリマ州、ベラクルス州などにも勢力を拡大しており、民間人を標的とした暴力行為を繰り返しています。

ハリスコ州

ハリスコ州はCJNGの本拠地であり、同州では麻薬販売と闇市場で支配力を増しています。CJNGの暴力行為は、州都グアダラハラとその周辺地域に集中しており、地元の麻薬市場を巡る争いが激化しています。

ナヤリット州とコリマ州

ナヤリット州とコリマ州では、暴力のレベルは低いものの、CJNGの支配が確立されています。コリマ州では、ロス・メスカレス・ギャングとの同盟が解消されたことにより、暴力的な衝突が勃発しました。

ベラクルス州

ベラクルス州では、他の犯罪組織との競争が続く中で、CJNGが勢力を拡大しています。ベラクルス港は、大西洋への戦略的な出口であるため、麻薬密売回廊として重要な場所とされています。

アメリカ合衆国での活動

CJNGは、アメリカ合衆国との国境沿いの地域で存在感を増しており、主要都市にも拠点を置いています。このため、アメリカ法執行機関にとって重要な課題となっています。

南米での活動

CJNGは、コロンビア、ペルー、エクアドル、ブラジルなど南米各国で活動しており、特にコロンビアでは犯罪組織と連携して勢力を拡大しています。また、麻薬製造の拠点としてペルーにも関与しています。

ヨーロッパでの活動

アイスランド

アイスランドでは、コカインや合成麻薬の取引にCJNGが関与しており、その勢力が増大しています。これらの薬物は、空港やフェリーを通じて密輸されていると報告されています。

アイルランド

アイルランドでは、CJNGが最大の敵対組織であるシナロア・カルテルとキナハン・カルテルと対立しています。アイルランドは、麻薬がイギリスやその他のヨーロッパ諸国に持ち込まれるルートとして利用されています。

アルバニア

アルバニアでは、CJNGがアルバニアマフィアと協力してヘロインやコカインの密輸に関与しています。アルバニアは、ヨーロッパへの麻薬密輸の中継国として重要な役割を果たしており、大麻の生産も行われています。

イギリス

イギリスでは、首都ロンドンなどに活動拠点を置いており、メキシコや中南米からの麻薬密輸に関与しているとされています。

その他のヨーロッパ諸国

その他、イタリア、スペイン、オランダ、フランス、クロアチア、スロベニア、ベルギーなどでも活動拠点を設置しています。

アジアでの活動

日本

日本では、2021年に覚醒剤の密輸事件でCJNGとの関連が指摘されています。この事件では、稲川会と住吉会の組員がメキシコから覚醒剤を密輸したとされています。

韓国

韓国は、中国やオセアニアなどアジア地域へのコカインの重要な拠点となっており、釜山港がラテンアメリカからのコカインの到着に重要な役割を果たしています。

中国

中国では、フェンタニルの原料をシナロア・カルテルやCJNGに密売していたとして、アメリカ司法省が中国企業と関係者を起訴しました。

アフリカでの活動

アフリカでの具体的な活動は不明ですが、麻薬密輸ルートに関与している可能性が指摘されています。

関係しているとみられる事件

2011年

9月20日、ロス・セタスのメンバー35人が武装集団に殺害され、遺体が路上に放置されました。この事件では、「セタス殺し」を名乗る犯行声明が出されました。

2015年

4月6日、警察の車列が武装集団に襲撃され、警察官15人が死亡しました。5月22日には、警察と武装集団との間で銃撃戦が発生し、警察官1人を含む43人が死亡しました。

2017年

1月21日、マンサニージョ近くで頭部のない7体の遺体が発見されました。

2018年

1月4日、ベラクルス州で5人の頭部がCJNGの署名入りメッセージとともに発見されました。3月19日には、グアダラハラの映画学校の学生3人が行方不明となり、翌月に酸が入った樽から遺体で発見されました。

2020年

6月16日、コリマ州で連邦判事夫妻が射殺されました。6月26日には、メキシコ市の治安庁長官が武装勢力の襲撃を受け、負傷しました。

まとめ

ハリスコ新世代カルテルは、メキシコ国内だけでなく、世界中に影響を及ぼす犯罪組織です。その残虐な手口、広範な活動範囲、組織構造は、国際社会にとって深刻な脅威となっています。今後も、メキシコ政府や国際社会が連携して、この組織の解体に取り組む必要があります。

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