イバード派

イバード派：イスラム教における独自の宗派

イバード派（アラビア語: الإباضية）は、主にオマーンで信仰されているイスラム教の宗派です。アルジェリア、チュニジア、リビア、東アフリカの一部にも信者が存在します。イバード派は、預言者ムハンマドの死後約20年後の650年頃に成立し、スンナ派やシーア派よりも古い歴史を持っています。ハワーリジュ派の流れを汲んでいますが、自身をハワーリジュ派とは区別しています。

歴史

イバード派の宗派名は、始祖であるアブドゥッラー・イブン・イバードに由来しますが、事実上の創始者はジャービル・イブン・ザイドです。イブン・イバードは、ウマイヤ朝のカリフ、アブドゥルマリクの時代に、ハワーリジュ派の分裂を収拾する役割を果たしました。イバード派は、第3代正統カリフであるウスマーンの統治に反対しましたが、より過激なハワーリジュ派とは異なり、ウスマーンの殺害や、異なる宗派のムスリムを多神教徒と見なす思想を否定しました。また、第4代正統カリフのアリーに反対する穏健なグループに属し、アリーとウマイヤ朝の初代カリフ、ムアーウィヤの間の紛争以前のイスラム教の姿に戻ることを目指しました。

ウマイヤ朝への敵対から、イバード派は740年代にヒジャズ地方で武装蜂起を試みましたが、ウマイヤ朝のカリフ、マルワーン2世によって鎮圧されました。しかし、シリアにイバード派が残存したため、ウマイヤ朝はイバード派との和平を余儀なくされ、イバード派はその後4年間、シバームに共同体を維持し、オマーンのイバード派当局に税金を納めることが許されました。ウマイヤ朝の軍人、ハッジャージ・イブン・ユースフは、ハワーリジュ派に対抗するためにイバード派を支援し、ジャービル・イブン・ザイドはユースフとの友好関係を維持しました。しかし、イブン・ザイドはユースフのスパイの暗殺を命じ、それと共に多くのイバード派が反乱を起こしてオマーンに追放されました。

8世紀には、イバード派はオマーン内陸部にイマームを擁立しました。イバード派のイマームは世襲ではなく選挙で選ばれ、政治的、精神的、軍事的機能を果たしました。

10世紀には、イバード派はシンド、ホラーサーン、ハドラマウト、ドファール、マスカット、ナフサ山地、ゲシュム島に広がっていました。13世紀までには、アンダルス、シチリア、ムザブ、サヘル地域の西部にも存在していました。シバームの最後のイバード派は、12世紀にスライフ朝によって追放されました。14世紀、歴史家のイブン・ハルドゥーンは、ハドラマウトにおけるイバード派の影響について言及しましたが、現在、この地域にイバード派は存在しません。

教義

イバード派は、イスラム教の初期の正統的な解釈であると考えています。

他宗派との教義上の違い

イバード派は、イスラム教の他の宗派といくつかの教義上の違いを持っています。

最後の審判の際に、アッラーはムスリムに自身の姿を示さないと考えます（ムゥタズィラ派やシーア派と同様）。スンナ派は、ムスリムが審判の日にアッラーと会うと考えます。
クルアーンはある時点でアッラーによって創造されたと考えます（ムゥタズィラ派と同様）。スンナ派は、クルアーンは神と共に永遠であると考えます。
クルアーンのアッラーへの擬人化された言及を比喩として解釈します（ムゥタズィラ派やシーア派と同様）。
予定説についての見解はスンナ派と同様です。
イスラム世界の指導者は1人である必要はなく、その職に適した人物がいなければ、ウンマは自治を行うことができると考えます。これはスンナ派のカリフ制、シーア派のイマーム制とは異なります。
イマームは、預言者ムハンマドの部族であるクライシュ族の子孫である必要はないと考えます。これはシーア派とは異なります。
* 特定の状況下で自分の信念を隠すことは容認できると考えます（シーア派のタキーヤと同様）。

イスラム史と歴代カリフに対する見解

イバード派は、スンナ派と同様に、アブー・バクルとウマルを正統なカリフと認めます。ウスマーンの統治については、前半は正統と見なし、後半は縁故主義と異端の影響を受けて腐敗したと見なします。また、シーア派と同様に、アリーの統治の初期を認め、アーイシャの反乱とムアーウィヤの反抗を否定します。しかし、スィッフィーンの戦いでの和平がアリーを指導者として不適格にしたと見なし、ナフラワーンの戦いでハワーリジュ派を殺害したことを非難します。現代のイバード派の神学者は、ウスマーン、アリー、ムアーウィヤに対するハワーリジュ派の初期の抵抗を擁護しています。

モロッコの探検家イブン・バットゥータは、オマーンでイバード派のジュムアを観察し、ジュムアをズフルと同じように祈っていると語りました。そして、イバード派がウスマーンとアリーではなく、アッラーの慈悲にアブー・バクルとウマルについて祈っていることを指摘しました。

イバード派の考えでは、次の正統なカリフは、ムアーウィヤとの和平を結んだアリーに抵抗したハワーリジュ派の指導者、アブドゥッラー・イブン・ワーブです。ムアーウィヤ以降のすべてのカリフは、ウマル2世を除いて君主と見なされます。多くイバード派の指導者が、真のイマームとして認識されています。伝統的に、保守的なオマーンのイバード派は君主制と世襲制を拒否し、指導者を選出しています。

他の場での激しい宗教紛争にもかかわらず、イバード派は現実主義者であり、理由と政治的便宜が理想的なイスラム教の状態を調節しなければならないと考えています。

イバード派は、イスラム教の多様性を示す重要な一例です。彼らの歴史、教義、そして他宗派との関係は、イスラム教の複雑さを理解する上で貴重な洞察を与えてくれます。

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