ハーティトラスト

ハーティトラスト・デジタルライブラリとは

ハーティトラスト・デジタルライブラリ（HathiTrust Digital Library）は、略称でハーティトラストとも呼ばれる、主にアメリカ合衆国を中心とした世界各国の大学や研究機関の図書館が連携して運営する大規模な電子図書館です。これらの機関が所蔵する膨大な書籍や報道資料をデジタル形式で収集・保存し、研究者や一般利用者に提供することを目的としています。

プロジェクトは2008年1月に準備が開始され、同年10月に正式な運用が始まりました。設立当初は、ミシガン大学図書館長のポール・クーラント氏とインディアナ大学図書館が主導的な役割を果たし、中西部を中心とするビッグ・テン大学連盟（当時の名称はThe Committee on Institutional Cooperation）に参加する12大学に加え、シカゴ大学とカリフォルニア大学システム傘下の11図書館が共同で立ち上げました。名称に含まれる「Hathi」は、ヒンディー語やウルドゥー語で「ゾウ」を意味し、ゾウが優れた記憶力を持つ動物であることに由来しています。

収集資料と提供

ハーティトラストが収蔵するデジタル化された資料は、設立当初の約200万冊（これは当時パブリックドメインとされていた書籍全体の約16%に相当します）から大きく拡大し、発足から約10年後の2018年10月には1億6700万冊を超える規模になりました。これに伴い、プロジェクトに参加する図書館の数も世界中で140機関以上に増加しています。

デジタル化された著作物は、Google ブックスやインターネット・アーカイブ、マイクロソフトといった、デジタルコンテンツの流通を推進する営利企業が提供するサービスや、ハーティトラストに参加する各図書館が独自に構築したシステムを通じて公開されています。デジタル化の対象となるのは、著作権法による保護期間内の資料と、パブリックドメインとなった資料の両方です。

著作権で保護されている著作物をデジタル化・利用する際には、著作権者からの許諾が必要となります。ハーティトラストでは、この課題に対応するため、クリエイティブ・コモンズ（Creative Commons）ライセンスなどの手法を活用しています。また、ハーティトラストの利用者は世界中に広がっており、各国の著作権法の保護期間が異なるため、利用者のインターネット・プロトコル（IP）アドレスなどを参照して、各著作物の保護ステータスを判別する仕組みを導入しています。

運営と体制

ハーティトラストの運営にかかるコストは、参加する図書館や図書館コンソーシアムが提供するデジタル著作物の量に応じて分担される仕組みになっています。収集されたデジタル著作物を格納するリポジトリは、インディアナ大学とミシガン大学によって管理・運営されています。プロジェクト全体の運営方針を決定する理事会は12名のメンバーで構成されており、そのうち半数はプロジェクトの設立当初から参加している大学の代表者が占めるという規定があります。2019年時点では、アイオワ大学のジョン・カルショウ氏が理事長を務めていました。

著作権を巡る訴訟

ハーティトラストの活動は、著作権に関する議論を引き起こしました。特に重要な出来事として、2011年9月に全米作家協会（Authors Guild）が、ハーティトラストによる大規模な著作権侵害を主張して提訴したケースがあります。この訴訟に対し、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は2012年10月、ハーティトラストがグーグルによってスキャンされた書籍を利用する行為は、アメリカ合衆国著作権法に定められたフェアユース（公正利用）の原則に合致すると判断し、全米作家協会の訴えを退ける判決を下しました。

これは、全米作家協会が2005年9月に、Google ブックスを運営するグーグルに対しても同様の著作権侵害を訴えて集団訴訟を起こしていた背景があります。フェアユースの判断基準の一つに「非営利性」があることや、Google ブックスが世界規模で展開されていることなどが、裁判の複雑性を増しました。その結果、ハーティトラストに対する判決が約1年で確定したのに対し、グーグルに対する最終判決は約11年もの歳月を要しましたが、こちらも最終的にフェアユースと判断されました。これらの判例は、デジタル時代の著作物利用と著作権法の解釈において重要な位置を占めています。

ハーティトラストは、Open Content Allianceのような類似の電子図書館プロジェクトや、電子図書館の概念、アメリカ合衆国の著作権法やその判例、フェアユースといったキーワードと関連付けられる存在意義が論じられています。

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