ハーミーズ (空母・初代)

イギリス海軍航空母艦「ハーミーズ」：世界初の車輪付き航空機運用空母とその最期

「ハーミーズ」(HMS Hermes, 95)は、イギリス海軍が保有した航空母艦です。その名はギリシア神話のヘルメースに由来し、様々な表記(ハーミス、ハームス、ハーミズ、ヘルメスなど)が見られますが、『戦史叢書』では「ハーミーズ」を採用しています。

ハーミーズは、黎明期の航空母艦でありながら、高い技術的先見性を持っていました。世界で初めて車輪付き航空機の運用を計画された艦艇であり、その設計思想は革新的でした。しかし、小型空母であるという制約から、搭載機数は約20機と少なく、速力も25ノットと低速でした。これは、航空母艦としての能力に限界があったことを示しています。

海軍休日時代には中国艦隊に所属し、日本にも度々来訪していました。しかし、その短い生涯は悲劇的な結末を迎えます。1942年4月9日、セイロン島沖で日本海軍機動部隊の空襲を受け、随伴駆逐艦と共に沈没しました(セイロン島沖海戦)。

建造経緯：イギリス空母開発の歴史におけるハーミーズの位置付け

世界における航空母艦開発をリードしていたのはイギリスでした。第一次世界大戦中のユトランド沖海戦では、水上機母艦「エンガーダイン」が偵察任務を行い、航空機の有用性が証明されました。その後、イギリスとアメリカは装甲巡洋艦や旧式戦艦に滑走台を設置する実験を行い始めましたが、着艦は不可能でした。

着艦を実用化したのもイギリスでした。「フューリアス」と「ヴィンディクティヴ」は、超大型巡洋艦や大型巡洋艦を改造した空母でしたが、艦中央部の構造物が着艦を困難にしていました。

実質的に世界最初の空母は、貨客船を改造した「アーガス」でした。全通式飛行甲板を持つフラッシュデッキ型空母として完成しました。その後、未完成戦艦を改造した「イーグル」が登場し、全通飛行甲板と島型艦橋という、後の空母の標準的な艦型を確立しました。

ハーミーズは、世界で初めて最初から空母として建造された艦艇です。1918年1月15日に起工、1919年9月11日に進水しました。第一次世界大戦終結により急造の必要はなくなり、「アーガス」や「イーグル」の運用実績を参考に、慎重な建造が行われました。進水後はデヴォンポート海軍工廠で艤装工事が行われ、この際に日本海軍の造船士官がハーミーズの情報を入手していました。

ハーミーズは1924年2月18日に竣工しましたが、実は日本海軍の空母「鳳翔」の方が先に完成していました。そのため「鳳翔」を「世界で最初に竣工した純粋な空母」とする見解もあります。

艦形：小型ながら効率的な設計

ハーミーズは「アーガス」や「イーグル」の運用結果を参考に設計されました。小型の船体を有効活用するため、艦首と飛行甲板の間に隙間のない「エンクローズド・バウ」を採用し、飛行甲板長を最大限に確保していました。飛行甲板長は182.3mで、「イーグル」の198.2mとほぼ同等でした。エレベーターはT字型を1基備え、後に1基増設されました。格納庫は一段式でした。

ハーミーズは、島型艦橋を持つ空母でした。小型な船体に対して大きな艦橋はアンバランスな印象を与えていましたが、これは巡洋艦との戦闘も考慮した設計でした。艦橋は三脚型マストと射撃指揮所、測距儀を備え、高さは35mに達しました。しかし、この大型艦橋によるトップヘビー傾向を補うため、左舷側に海水を充填していました。

主砲は14cm速射砲6門、対空火器として10.2cm高角砲3基などを搭載していました。艦尾甲板は水上機の運用を考慮して低く設計され、水上機を海面に降ろして運用していました。

搭載機と兵装：時代の変遷を反映した装備

ハーミーズの搭載機は時代と共に変化しました。竣工時はフェアリー・フライキャッチャー、フェアリーIII F型、ブラックバーン・ダートなどを搭載していましたが、1935年にはホーカー・オスプレイ、フェアリー・シールに、1939年以降はフェアリー・ソードフィッシュに統一されました。

主武装はアームストロング14cm速射砲6基で、37.2kgの砲弾を14,630mまで射程していました。対空火器は10.2cm高角砲、7.62cm速射砲、12.7mm機銃などを搭載し、就役後に装備は近代化されていきました。

防御力は対巡洋艦戦闘を意識しており、舷側装甲は76mm、主甲板は25mmでした。機関はヤーロー式重油専焼缶6基とパーソンズ式タービン2基2軸推進で、最大出力40,000馬力、速力25ノットを発揮しました。

艦歴：海軍休日時代からセイロン沖海戦まで

ハーミーズは1924年に竣工し、ワシントン海軍軍縮条約により、イギリスは世界最大の空母保有国となりました。しかし、イギリス海軍の空母に対する迷いが反映され、各空母の性能や外観は統一されていませんでした。

第二次世界大戦勃発後、ハーミーズは対潜哨戒に従事しましたが、その後は通商破壊艦「アドミラル・グラーフ・シュペー」の捜索、ダカールの封鎖、ヴィシーフランス海軍との戦闘などに参加しました。1942年には極東の情勢悪化に伴い東洋艦隊に編入され、セイロン島を拠点に哨戒任務に従事しました。

セイロン沖海戦と沈没：悲劇的な最期

1942年4月9日、セイロン島トリンコマリー沖で日本海軍機動部隊の空襲を受けました。ハーミーズは翔鶴、瑞鶴、蒼龍、飛龍、赤城から発進した艦上爆撃機と戦闘機による攻撃を受け、わずか5分間の攻撃で沈没しました。この戦闘で、ハーミーズ艦長以下307名が戦死しました。ハーミーズは、第二次世界大戦中、日本海軍に撃沈された唯一のイギリス空母です。

残骸の発見：沈没から半世紀を経て

長年スリランカ内戦の影響で発見が遅れていましたが、2002年にスリランカのダイバーによって水深60mの海底で発見されました。現在ではダイビングスポットとなっており、第二次世界大戦で戦没した空母の中で唯一、ダイバーによる潜水が可能な空母となっています。ハーミーズの短いながらも波乱に満ちた生涯は、世界海軍史において重要な位置を占めています。

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