タイの歴史

タイの歴史：先史時代から現代まで

タイの歴史は、東南アジアにおける人類の歴史と密接に結びついています。50万年以上前に、現在のタイ北部にはホモ・エレクトスが居住していた痕跡が発見されており、旧石器時代から現生人類が定住し始めました。狩猟、採集、漁労を営みながら、洞窟や岩陰で生活を送っていた人々は、部族単位で移動を繰り返していました。約1万年前の中石器時代には、気候変動に伴う海面上昇によって地形が変化しましたが、東南アジアの動植物相は比較的安定していたため、打製石器を用いた生活様式は長く続きました。この時代には、ホアビニアン文化に代表される中石器文化が東南アジア各地に広がり、タイにもその痕跡が見られます。

タイ東北部のイーサーン地方では、紀元前4000～3000年頃の岩絵が数多く発見されており、紀元前6000年頃のものと推定される岩絵も存在します。これらの岩絵は、中国南部や他のタイ地域に点在する岩絵と類似性を示しており、当時の文化交流を示唆しています。

新石器時代に入ると、稲作が始まり、社会構造も変化しました。部族社会から集落社会へと移行し、社会組織は複雑化していきました。青銅器時代になると、分散した村落（ムーバーン）が統合され、よりまとまった「ムアン」（くに）へと発展しました。紀元前2千年紀には、初期の青銅器文化を持つ集落が出現し、紀元前3世紀までには製鉄も始まっていたと考えられています。この青銅器・鉄器文化は、中国南部やベトナム北部にも広がっていました。

タイの民族構成は多様性に富んでいます。タイ南部には、かつてアンダマン諸語族に属する言語を話していたと考えられるマニ族（ネグリト系）が先住民として存在し、その後モン・クメール語族のモン族やクメール族が移住して来ました。紀元前2世紀頃からは、東西交易の海上ルートが利用されるようになり、マレー半島の付け根には、モン語系民族の交易拠点があったと推定されます。3～5世紀頃には、盤盤や狼牙脩（ランカスカ、後のパタニ）といった交易勢力が現れ、活発な交易が行われていました。

現在のタイ人を形成するタイ族は、タイ・カダイ語族に属し、中国の揚子江以南地域を起源とすると考えられています。漢民族の圧力によって、6～7世紀頃に中国南部から南下・西進し、11～12世紀頃にはメコン川流域に大ムアンを形成しました。

古代国家

7世紀頃には、シュリーヴィジャヤがマラッカ海峡周辺を支配し、タイ南部にも影響を与えました。10世紀以降、タイ南部のチャイヤーはシュリーヴィジャヤの重要な港市国家の一つとなりました。8世紀後半には、ジャワのシャイレーンドラ朝の影響下にも置かれていました。

6世紀末から11世紀頃にかけて、タイ中部ナコーンパトムを中心としたドヴァーラヴァティー（モン族）が栄えました。上座部[[仏教]]が伝来し、タイ最古の仏塔であるプラ・パトムチェーディーが建設されました。ただし、その建設時期は4～6世紀頃と推定されています。

9世紀頃からクメール王朝の影響を受けたラヴォ王国は、ドヴァーラヴァティーから独立しました。11世紀初頭にはクメールに征服されましたが、12世紀には独立の動きを見せ、1[[3世紀]]までクメールの支配を受けました。

ハリプンチャイ王国は、伝説によれば7世紀に成立しましたが、11～1[[3世紀]]が最盛期でした。1[[3世紀]]にはクメールの支配を受け、1292年にはラーンナー王国に滅ぼされました。

クメール王朝は、5世紀中頃には扶南を征服し、7世紀には陸真臘と水真臘に分裂した後、9世紀初頭に独立しました。その後、タイ東北部から中部、マレー半島北部へと勢力を拡大しました。

ラーンナー王国は、11～12世紀頃にタイ北部で成立しました。1259年、マンラーイが即位し、支配地域を拡大していきました。1281年にはハリプンチャイ王国を滅ぼし、1296年にチエンマイに遷都しました。15世紀にはアユタヤと対立し、1[[6世紀]]にはビルマの属国となりました。

スコータイ王朝、アユタヤ王朝

1240年頃、バーンクラーンハーオがスコータイ王国を建国し、クメールの支配から脱却しました。ラームカムヘーン大王の治世には版図が拡大し、タイ文字が考案されたと言われています。しかし、1[[4世紀]]にはアユタヤ王朝の台頭によって衰退し、アユタヤに吸収されました。

1351年、ウートーンがアユタヤ王朝を建国しました。アユタヤは、スパンブリーやロッブリーと連携しながら、勢力を拡大していきました。15世紀にはスコータイを吸収し、版図を拡大しました。しかし、1[[6世紀]]後半にはビルマのタウングー王朝に征服され、一時属国となりました。

1584年、ナレースワンがアユタヤの独立を宣言し、ビルマを撃退してアユタヤの版図を最大に拡大しました。17世紀には、ヨーロッパ諸国との交易も盛んになり、日本人も多く居住しました。

しかし、18世紀半ばにはビルマのコンバウン王朝に滅ぼされました。

トンブリー王朝、チャクリー王朝

1768年、タークシンがトンブリー王朝を建国し、アユタヤの奪還と版図回復に努めました。しかし、1782年にクーデターで殺害され、チャクリー王朝に変わりました。

チャクリー王朝初代のラーマ1世は、バンコクを新首都に定め、王宮とワット・プラケーオ（エメラルド寺院）を建設しました。19世紀には、ヨーロッパ列強との外交を行い、植民地化を免れました。

ラーマ4世とラーマ5世は、近代化改革を推し進め、タイの独立を維持しました。しかし、19世紀末には、フランスやイギリスとの条約により、一部の領土を割譲しました。

近代化と20世紀

20世紀に入ると、タイは第一次世界大戦に連合国側として参戦し、戦後には不平等条約を改正しました。1932年には、立憲革命により絶対君主制から立憲君主制に移行しました。

第二次世界大戦では、当初は中立を宣言しましたが、その後日本と同盟を結び、連合国に宣戦しました。終戦後、タイは連合国との関係改善に努め、戦勝国としての地位を得ました。

戦後、タイは民主化と軍事クーデターを繰り返しながら、経済発展を遂げました。1990年代には、通貨危機に見舞われ、2000年代にはタクシン政権と反タクシン勢力の対立が激化しました。

2010年代には、洪水災害やカンボジアとの国境紛争、反政府デモなどが発生し、2014年には軍事クーデターが起こりました。その後も、政治的な不安定さは続いています。

タイの歴史は、周辺諸国との関係、内外の紛争、近代化への取り組み、民主化運動、軍事クーデターなど、複雑で多様な要素が絡み合った歴史です。今後も、タイは歴史と向き合いながら、新たな時代を切り開いていくことでしょう。

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