バグダードの戦い

1258年バグダードの戦い：イスラム黄金時代の終焉

1258年、世界史に大きな転換点を刻む出来事が起こりました。チンギス・ハンの子孫であるフレグ率いるモンゴル軍による、アッバース朝バグダードの陥落です。この戦いは、単なる軍事衝突ではなく、イスラム黄金時代の終焉、そして数多の文化遺産の喪失を意味する悲劇的な出来事でした。

バグダード：かつての栄光

現在のイラクの首都、バグダードは、かつてアッバース朝の首都として栄華を極めました。東西交易の中心地として繁栄し、産業革命以前の世界最大の都市の一つに数えられ、人口は100万人を超え、6万人の精強な軍隊を擁していました。しかし、13世紀の中頃には、その力は衰え始めていました。

モンゴルの西征

1253年頃、モンケ・カアンの弟であるフレグを先鋒とするモンゴル帝国の大規模な西征が始まりました。フレグはモンゴル軍史上最大規模の軍隊、全軍の10分の1に相当する兵士を率いていました。その中には、グルジア人を中心とするキリスト教徒の部隊や、中国人の銃器専門家も含まれていました。中には、フランスのアンティオキア公国からのフランク人部隊もいたという説もあります。

包囲と抵抗の果てに

1257年11月、フレグ率いるモンゴル軍はバグダードを包囲しました。アッバース朝第37代カリフ、ムスタアスィムはモンゴルの降伏要求を拒否しました。「バグダードを攻撃すればアラーの怒りを買うであろう」という警告にも関わらず、ムスタアスィムは市壁の強化や軍備増強を怠りました。歴史家デビッド・ニコルは、このムスタアスィムの無策がバグダードの滅亡を決定づけたと指摘しています。

ニザール派のアラムート城塞が陥落したことで、アッバース朝はほぼ無力化されていました。フレグはハマダンを経由し、チグリス川付近で軍を東西に分割して攻撃を開始しました。アッバース朝軍は西岸からの攻撃を撃退しましたが、東岸からの奇襲に耐えかね、堤防が破壊され、水攻めによって壊滅的な被害を受けました。

モンゴル軍は、城壁を突破するための攻城兵器やカタパルトを使用し、激しい攻撃を続けました。1月29日に始まった攻撃は、2月5日には城壁を突破し、2月10日、アッバース朝はついに降伏しました。

残虐行為と破壊

バグダード陥落後、モンゴル軍は1週間以上に渡り、都市を徹底的に破壊し、略奪、強姦、殺戮を行いました。市民は逃げようとしたものの、捕らえられ、幼児から老人まで無差別に虐殺されました。歴史家ワッサーフは数十万人、イアン・フレイザーは20万人から100万人もの死者が出たと記しています。バグダードのモスク、宮殿、図書館、病院などはことごとく破壊されました。特に、数多くの貴重な書物を所蔵していた知恵の館の破壊は、イスラム文明にとって計り知れない損失となりました。

ムスタアスィムはモンゴル軍に捕らえられ、市民の虐殺と略奪を目の当たりにした後、モンゴル式の処刑、敷物に巻かれ馬に踏まれるという形で殺害されました。モンゴル軍は、降伏を拒否した都市を徹底的に破壊するという戦略を取っていました。

その後の展開と影響

バグダード陥落後、モンゴル軍はシリアに侵攻しましたが、1260年のアイン・ジャールートの戦いでマムルーク朝に大敗し、中東から撤退しました。バグダードの陥落は、アッバース朝の終焉だけでなく、イスラム黄金時代の終焉を象徴する出来事であり、その文化的、学術的な損失は計り知れません。チグリス川が死者の血と、捨てられた書物のインクで黒く染まったという生存者の証言は、その悲惨さを物語っています。この戦いは、世界史に大きな影響を与え、現代に至るまで研究され続けています。

参考文献

本文中で触れられている歴史書や研究文献などをここに列挙する必要がありますが、文字数の都合上省略させていただきます。具体的な文献名などは、必要に応じてご指示ください。

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