バダイ

バダイ（Badai）

バダイ（生没年不詳）は、オロナウル・ケレングト出身で、チンギス・カンに仕えた千人隊長の一人です。漢文史料では巴歹/把帯/抜台、ペルシア語史料ではبادای(Bādāī)と記されます。同僚のキシリクと共にケレイト部によるチンギス・カン暗殺計画を事前に察知し、チンギス・カンに報告したことでダルハンの称号を与えられたことで知られています。

生涯

バダイとキシリクが属するオロナウル・ケレングト氏は、モンゴル部キヤト氏の有力集団であるキヤト・サヤール氏の隷民でした。バダイとキシリク兄弟は、テムジン（後のチンギス・カン）が勢力を拡大する頃、キヤト・サヤール氏のイェケ・チェレンに仕え、牧馬の仕事をしていました。イェケ・チェレンは親族のアルタンと共に戦利品の分配への不満からテムジンの下を離れ、ケレイト部のオン・カンに仕えるようになり、オン・カンの子のイルカ・セングンを中心としたテムジン暗殺計画に関与しました。

テムジン暗殺の議論の後、イェケ・チェレンが帰宅して妻のアラクイトにその件を話した際、偶然バダイがその内容を聞き取ってしまいます。バダイが聞いた内容（チンギス暗殺計画）をキシリクに伝えると、キシリクは真偽を確かめるために出かけ、イェケ・チェレンの子のナリン・ケエンがチンギス暗殺計画を秘密にしなければならないと話しているのを聞きました。イェケ・チェレンとナリン・ケエンの意図を悟ったバダイとキシリクは、テムジンに投降して暗殺計画を伝えることを決意し、ナリン・ケエンらのために用意された2頭の馬に乗ってテムジンの下に駆けつけました。

この功績により、バダイとキシリクは隷民からテムジンの忠臣として取り立てられ、1206年のチンギス・カン即位時には、ソルカン・シラと共に隷民から自由民に昇格するようチンギス・カンから指示がありました。バダイとキシリクは千人隊長（ミンガン）に任じられると共に、様々な特権を有する「ダルハン」という称号を授けられ、以後、彼らの子孫は代々ダルハンを称しました。

『元史』巻95食貨志3には、「八答子（バダイの子孫、実際にはキシリクの子孫も含む）」に対して順徳路が投下領として与えられたことが記録されています。この投下領は「オロナウル部」として、元々同族であったアルラト部のボオルチュ家、コンゴタン部のテムデイと共に「右手万戸三投下」として一括して与えられたものですが、後に順徳路のみが独立しました。キシリクの子孫はオルジェイトゥ・カアン（成宗テムル）の時代の宰相ハルガスンを輩出したことで有名になり、『元史』にも列伝が残されていますが、バダイの一族に関する記述はほとんどありません。

脚注

参考文献

志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年
松田孝一「オゴデイ・カンの「丙申年分撥」再考 (2) 一分撥記事考證――」『立命館文学』619、2010年
村上正二訳注『モンゴル秘史 1巻』平凡社、1970年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年
『元史』巻193列伝80
『新元史』巻125列伝22

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