バハラーム1世

バハラーム1世（在位：273年 - 276年）は、サーサーン朝ペルシアの第4代君主です。彼の名は、パフラヴィー語で「ワラフラーン」や「ワルフラーン」とも表記され、神の名前を冠することで加護を願うテオフォリックネームに由来します。即位前はギーラーンの王としてカスピ海南岸を統治していました。

低い血統からの即位

シャープール1世の次男とされていますが、母の身分が低かったため、他の兄弟と比べて冷遇されていました。シャープール1世の碑文にも、彼の名だけが聖火で顕彰されていません。ギーラーンは、他の兄弟が統治した地域に比べても重要度が低いと見なされていました。しかし、バハラームは敬虔なゾロアスター教徒として知られ、兄ホルミズド1世の急死後、マニ教の台頭を警戒するゾロアスター教団の支持を得て、帝位に就くことになります。

ゾロアスター教の強化とマニ教の弾圧

バハラーム1世の即位は、ゾロアスター教団の権力拡大を意味しました。彼は、ゾロアスター教の最高権力者カルティールの進言を受け、マニ教の開祖マニを処刑しました。これは、シャープール1世やホルミズド1世の寛容な宗教政策からの転換であり、マニ教への迫害につながりました。マニ教の聖職者たちは処刑や罰を受け、教団は大きな打撃を受けました。この政策は、バハラーム1世の権威を確立し、後継者への安定した継承を目指す上で重要な役割を果たしました。

対ローマ帝国政策

バハラーム1世の治世は、ローマ帝国との関係においても重要な局面を迎えました。パルミラ帝国のゼノビアがローマ帝国に反旗を翻した際、バハラーム1世は支援を求められ、部隊を派遣しましたが、ローマ軍に敗れました。その後、ローマ皇帝アウレリアヌスとの間で休戦協定が結ばれましたが、バハラーム1世は自国軍の不満を抑えるのに苦労しました。アウレリアヌスが暗殺された後、サーサーン朝の領土に侵入したことからも、バハラーム1世の外交手腕は高くなかったことが示唆されます。

最期

バハラーム1世は276年に死去しました。彼の死後、王弟のナルセ1世と、当時10歳前半だった王子バハラーム2世との間で後継者争いが起こりましたが、最終的にバハラーム2世が即位しました。

バハラーム1世の短い治世は、ゾロアスター教の優位性を確立し、マニ教を弾圧したこと、そして対ローマ外交における手腕不足が特徴として挙げられます。彼の政策は、その後のサーサーン朝の歴史に大きな影響を与えました。

バハラーム1世は、その低い出自と短い治世にも関わらず、サーサーン朝の歴史において重要な役割を果たした君主の一人と言えるでしょう。彼の治世は、宗教政策の転換点となり、後の時代における宗教的、政治的な対立構造に影響を与えました。


参考文献

ジャーレ・アームーズガール、アフマド・タファッゾリー著（山内和也訳）『パフラヴィー語：その文学と文法』 シルクロード研究所、鎌倉、1997年4月
山本由美子著『マニ教とゾロアスター教』（世界史リブレット 4） 山川出版社、東京、1998年4月

外部リンク

諸王の王 - ウェイバックマシン（2006年12月15日アーカイブ分）
ササン朝史 - ウェイバックマシン（2015年4月25日アーカイブ分）

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