バヤン・クトゥク

バヤン・クトゥク（モンゴル語：ᠪᠠᠶᠠᠨᠬᠤᠲᠤᠭ, ラテン文字転写: Bayan Khutugh）は、元の恵宗トゴン・テムルの第二皇后であり、康里（コンギラト）部族の出身です。漢文史料では伯顔忽都と記されています。

生涯

彼女は毓徳王ボロト・テムル（アルチの子孫）の娘で、武宗カイシャンの皇后であった宣慈皇后ジンゲの姪にあたります。元統3年（1335年）、恵宗の皇后であったダナシリの兄テンギスが反乱を起こすと、ダナシリは右丞相バヤンによって毒殺されました。

後至元3年3月17日（1337年4月18日）、バヤン・クトゥクは恵宗によって皇后に封じられました。恵宗は高麗出身の貢女であった奇氏を寵愛し、皇后に立てることを望んでいましたが、右丞相バヤンの強い反対により、有力部族であるコンギラト部出身のバヤン・クトゥクが皇后となりました。恵宗との間に一男チンキムをもうけましたが、2歳で夭折しています。恵宗はバヤン・クトゥクのいる東内にはあまり足を運ばず、奇氏のいる興聖西宮によく通いました。後至元5年（1340年）に奇氏が男子アユルシリダラを産むと、恵宗の奇氏への寵愛はますます深まり、奇氏は第二皇后に冊立されました。

バヤン・クトゥクは慎み深く質素であり、妬むことを嫌い、礼法を重んじました。ある時、恵宗が上都に行幸した際、バヤン・クトゥクのもとに赴こうとして宦官を遣わし、皇后にその旨を伝えさせましたが、「夜が暮れては陛下のいらっしゃる時ではありません」と拒みました。恵宗はその後も何度も宦官を遣わしましたが、皇后の返事は変わらなかったため、恵宗はバヤン・クトゥクをさらに重んじたと言われています。また、ある時恵宗が「中政院の銭糧を与える用意があるが、皇后は今回も断るだろうか？」と尋ねると、バヤン・クトゥクは「私に書くことがあれば書きました。入って来るものを管理するとき、きっと私人を選ばなければならない私がどうしてその仕事をうまくこなすことができるでしょうか」と答えたと伝えられています。

至正25年（1365年）8月、42歳で死去しました。バヤン・クトゥクの遺した衣装があまりにも質素なのを見た奇氏は「正宮皇后（バヤン・クトゥク）がどうしてこのような服を着ていたのか！」と大笑いしたとされています。太原から戻ってきた皇太子アユルシリダラは、バヤン・クトゥクの死を大いに悲しんだと伝えられています。

バヤン・クトゥクは、政治的な背景から皇后に選ばれましたが、その慎み深く質素な人柄で周囲から尊敬を集めました。奇皇后との対比や、皇太子アユルシリダラとの関係など、彼女の生涯は様々な側面から興味深いものがあります。

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