ジンゲ

ジンゲ皇后：カイシャン・カアンの妃、コンギラト部出身

ジンゲ（モンゴル語: Zhēngē）は、モンゴル帝国第7代皇帝クルク・カアン（武宗カイシャン）の妃の一人です。彼女はコンギラト部出身であり、『元史』などの漢文史料では真哥（zhēngē）皇后と記されています。

生涯

『元史』巻114列伝1后妃伝によると、ジンゲはコンギラト部のブルブラ（迸不剌）の娘として生まれました。コンギラト部は、チンギス・カンの正妃ボルテを輩出して以来、チンギス・カン家の姻族として繁栄してきた一族です。ジンゲもカイシャンの妃の中では、『元史』「后妃表」の中で筆頭に挙げられるなど、非常に高い地位にありました。至大3年（1310年）には、カイシャンの皇后に立てられています。

しかし、ジンゲとカイシャンの間には息子が生まれませんでした。カイシャンの息子は、イキレス氏が生んだコシラ（後の明宗クトクト・カアン）と、タングート氏が生んだトク・テムル（後の文宗ジャヤガトゥ・カアン）のみでした。

カイシャンがカアンに即位した際、弟のアユルバルワダとの間に、「アユルバルワダを皇太子（次期カアン）とする代わりに、アユルバルワダの後はカイシャンの息子（コシラ、トク・テムル）を皇太子（次期カアン）にする」という約束がなされていました。しかし、この約束はカイシャン、アユルバルワダの母であり絶大な権勢を得ていたダギの意向によって無視されました。これは、ダギがコンギラト出身であり、非コンギラト出身の女性（イキレス氏、タングート氏）を母とする人物をカアンに戴くことを認め難かったためと考えられています。そのため、アユルバルワダの皇太子とされたのは、アユルバルワダとコンギラト出身の妃ラトナシリの間に生まれたシデバラ（後の英宗ゲゲーン・カアン）でした。

皇慶2年（1313年）には、長秋寺を建立して居所とし、英宗を経て泰定帝イェスン・テムル・カアンの治世まで生きました。泰定4年（1327年）11月、ジンゲは亡くなりました。イェスン・テムルはジンゲを尊んで宣慈恵聖皇后と諡しました。

ジンゲは、コンギラト部という名門の出身であり、カイシャンの皇后として高い地位にありましたが、息子に恵まれず、また、後継者争いという政治的な状況に翻弄された生涯であったと言えるでしょう。しかし、彼女の死後、その功績が讃えられ諡号が贈られたことは、彼女の存在が人々に深く記憶されていたことの証左と言えるでしょう。

参考文献

* 杉山正明「大元ウルスの三大王国 : カイシャンの奪権とその前後(上)」『京都大學文學部研究紀要』第34巻、京都大學文學部、1995年3月、92-150頁

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