バル・デ・ボイ

バル・デ・ボイ：ピレネー山脈に抱かれたロマネスクの宝庫

バル・デ・ボイ（Vall de Boí）は、スペイン・カタルーニャ州リェイダ県に位置する自治体で、その名の通りボイ渓谷を中心とした地域です。この地は、ピレネー山脈の雄大な自然と、中世初期ロマネスク建築の傑作である9つの聖堂群によって世界的に知られています。渓谷全体がまるでタイムスリップしたかのような雰囲気を持ち、訪れる人々を魅了し続けています。

地理と自然

バル・デ・ボイは、ピレネー山脈の稜線に沿って位置し、コマルカ・ダ・アルタ・リバゴルサの北東端にあります。その広大な面積は、この地域の自治体の中でも最大級です。渓谷内には、ピレネー山脈最高峰のスキーリゾート「ボイ＝タウル」があり、北東部はアイグエストルタス・イ・アスターニ・デ・サント・マウリシ国立公園に隣接しています。自然愛好家やアウトドア派にとっては、絶好のロケーションと言えるでしょう。

歴史

この地の歴史は、ムーア人によるスペイン占領の影響を受けなかったことから、9世紀にはキリスト教集落が形成されました。当初はトゥールーズ伯領、後にリバゴルサ伯領、そしてパジャス伯領を経て、12世紀にはアラゴン王国領となりました。戦略的な要衝であったため、渓谷には多くの城が築かれましたが、そのほとんどは現存していません。中世には銀の産地として栄え、この地の有力者たちはカタルーニャの戦役にも積極的に参加しました。

聖堂群：ロマネスク建築の粋

11世紀から14世紀にかけて、この地では新しい建築様式であるロンバルディア様式が取り入れられ、壮麗な聖堂群が建造されました。精巧な石造建築と優雅な鐘楼が特徴で、その中でも特に重要な9つの聖堂は、2000年にユネスコの世界遺産に登録されています。これらの聖堂には、かつて壁画が描かれていましたが、その多くはバルセロナの国立カタルーニャ美術館に収蔵されています。しかし、今もなお、多くの聖堂が礼拝の場として使われ続けています。

タウル集落のサント・クリメント聖堂

サント・クリメント聖堂は、バル・デ・ボイの聖堂群の中でも最大かつ最も保存状態の良い聖堂の一つです。1123年に献堂され、3つの身廊を持つバシリカ式聖堂として設計されました。内部には、全能者キリストの傑作が描かれていましたが、現在は美術館に収蔵されています。花崗岩で造られた建物と、6階建ての鐘楼が印象的です。

タウル集落のサンタ・マリア聖堂

サンタ・マリア聖堂は、サント・クリメント聖堂の翌日に献堂されました。こちらも3つの身廊を持ち、鐘楼は南の身廊から伸びています。18世紀に修繕された際にドームが追加されましたが、1970年代に取り除かれました。フレスコ画は、国立カタルーニャ美術館に移されています。

バルエラ集落のサント・フェリウ聖堂

サント・フェリウ聖堂は、かつては3つの身廊を持っていましたが、現在は半円筒ヴォールトを持つ単独の身廊だけが残っています。16世紀にはゴシック様式の礼拝堂とファサードが追加されました。

ボイ集落のサント・ホアン聖堂

サント・ホアン聖堂は、ボイ集落の入り口に位置しています。元々は木製の屋根でしたが、石造りのものに変わっています。18世紀に大改築を受けましたが、1960年代に取り除かれました。壁画は美術館に収蔵されています。

エリル＝ラ＝バル集落のサンタ・エウラリア聖堂

サンタ・エウラリア聖堂は、単独の長い身廊を持ち、東端に3つの後陣があります。北側には高さ23mの6階建ての鐘楼がそびえ立っています。

コル集落の聖母被昇天聖堂

聖母被昇天聖堂は、単独の身廊を持つ聖堂として建てられ、後年にゴシック様式の増築がなされました。南側の2階建てのゴシック様式鐘楼が特徴的です。

カルデト集落のサンタ・マリア聖堂

サンタ・マリア聖堂は、単独の身廊と後陣を持ち、後陣の地下には納骨堂があります。外観は11世紀のままですが、内観はバロック様式に改装されています。

ナティビター・デ・ラ・マレ・デ・デウ聖堂

ナティビター・デ・ラ・マレ・デ・デウ聖堂は、単独の長い身廊で構成されています。12世紀に建てられましたが、度々改築されているため、完成当時の面影はほとんど残っていません。1983年から修復工事が行われました。

サント・キルクの庵

サント・キルクの庵は、小さな身廊と後陣を持つ簡素な庵です。西端には背の低い鐘楼があります。

世界遺産登録基準

バル・デ・ボイの聖堂群は、以下の基準を満たして世界遺産に登録されました。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

まとめ

バル・デ・ボイは、その壮大な自然と歴史的な建造物群が調和した魅力的な地域です。ロマネスク建築の傑作である聖堂群は、中世の歴史と文化を今に伝え、訪れる人々に深い感動を与えます。ピレネー山脈の豊かな自然と、歴史的な建築物を同時に楽しめるこの地は、カタルーニャ州を訪れる際には外せない観光スポットと言えるでしょう。

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