バレー方面作戦

バレー方面作戦：ストーンウォール・ジャクソンの電撃戦

南北戦争初期の1862年春、南軍のストーンウォール・ジャクソン将軍が、バージニア州シェナンドー・バレーで展開した一連の作戦が「バレー方面作戦」として知られています。この作戦は、ジャクソン率いるわずか17,000名の南軍部隊が、北軍の3個軍団、60,000名以上の兵力を相手に、目覚ましい戦果を上げたことで有名です。

作戦の背景

1862年春、アメリカ連合国（南部）の士気は低迷していました。前年の第一次ブルランの戦いでの勝利は過去のものとなり、西部戦線では、ユリシーズ・グラント将軍率いる北軍が南部の領域に侵入、ドネルソン砦の戦いやシャイローの戦いで重要な勝利を収めていました。東部戦線では、ジョージ・マクレラン少将が率いる強力なポトマック軍が、南東からリッチモンドに迫り、アービン・マクドウェル少将の軍団も北から、ナサニエル・バンクス少将の軍団はシェナンドー・バレーを脅かす状況でした。

このような状況下で、ジャクソン率いる南軍部隊の士気は旺盛でした。バレー方面作戦におけるジャクソンの活躍は、北軍の作戦を頓挫させ、南軍の士気を大いに高める要因となりました。

作戦の開始

1861年11月、ジャクソンはバレー方面の指揮官となり、ウィンチェスターに司令部を置きました。第一次ブルランの戦いで英雄となったジャクソンは、バレーの地形にも精通していました。彼の部隊は、ストーンウォール旅団と様々な民兵隊で構成されていました。12月には、ウィリアム・ローリング准将率いる6,000名の増援を受けましたが、それでも攻勢に出るには兵力が不足していました。そこで、ジャクソンは、北軍のバンクスの部隊がポトマック川の北に留まっている間に、部下であるターナー・アシュビー大佐の騎兵隊に、チェサピーク・オハイオ運河やボルチモア・オハイオ鉄道を襲撃させました。

2月後半になると、バンクスの部隊はポトマック川を渡り、南下を開始しました。ジャクソン軍は、ジョセフ・ジョンストンの軍の左翼として機能していましたが、ジョンストン軍が3月にカルペパーへ移動すると、ジャクソン軍は孤立状態に陥りました。3月12日、バンクスはウィンチェスターを占領し、ジャクソンはストラスバーグまで撤退しました。バンクスの目的は、マクレランの半島方面作戦の一環として、ジャクソンをバレーから追い出し、その後ワシントンD.C.近郊に戻ることでした。

ジャクストンは、兵力で大きく劣勢なため、決戦を避けるように命令されていましたが、同時にバンクスの部隊を牽制し、マクレラン軍への増援を阻止する任務を負っていました。

戦闘の経過

第一次カーンズタウンの戦い (3月23日)

3月21日、ジャクソンはバンクスが2個師団をワシントン近郊に戻したことを知り、バンクスの部隊をバレーに引き付けておくために、3月22日、部隊をウィンチェスターに向けて進軍させました。アシュビーの騎兵隊は、カーンズタウンで北軍の前哨部隊を攻撃し、小競り合いとなりました。この際、シールズは負傷し、戦術指揮権をネイサン・キンボール大佐に委ねました。

ジャクソンは、シールズの部隊が約9,000名と知らず、行軍中の脱落者により3,000名に減った部隊で攻撃を仕掛けました。3月23日、ジャクソンはカーンズタウンで北軍の守備隊と激突しましたが、北軍の兵力に圧倒され、撤退を余儀なくされました。この戦いで、南軍は718名、北軍は590名の損害を出しました。

この戦いは、ジャクソンの軍歴における唯一の敗北となりましたが、戦略的には南軍の勝利に繋がりました。リンカーン大統領は、ジャクソンの大胆さと潜在的な脅威に動揺し、バンクスの部隊をバレーに戻しただけでなく、マクドウェルの軍団を首都近郊に留め置くことを命じました。これにより、マクレランの半島方面作戦の兵力が50,000名減少しました。

マクドウェルの戦い (5月8日-9日)

ジャクソン軍には、リチャード・イーウェルの師団とエドワード・ジョンソン少将の師団が加わり、総勢17,000名となりました。ジャクソンは、フリーモント軍とバンクスの軍が合流する前に、個別撃破することを決め、まずマクドウェルを攻撃しました。5月8日、ジャクソン軍はミルロイの旅団を攻撃し、激戦の末、北軍を撃退しました。これにより、北軍の連携を阻止し、バレーにおける南軍の優位を確立しました。

フロント・ロイヤルの戦い (5月23日)

5月21日、ジャクソンは部隊をニューマーケットから東に進め、イーウェルと合流、ルレー・バレーを北に進みました。5月23日、ジャクソン軍はフロント・ロイアルを急襲し、北軍の守備隊を圧倒しました。この勝利により、ストラスバーグにいたバンクスの部隊は、急遽ウィンチェスターまで撤退せざるを得なくなりました。

第一次ウィンチェスターの戦い (5月25日)

ジャクソンは、逃げるバンクスの部隊を追撃し、5月25日、ウィンチェスターで決戦を挑みました。ジャクソン軍は、イーウェル師団と協力し、北軍を打ち破りました。バンクスの軍は徹底的に打ち破られ、ポトマック川を越えて撤退しました。この勝利により、ジャクソンはバレーから北軍を駆逐することに成功しました。

クロスキーズの戦い (6月8日)

ジャクソンは、ポトマック川の北にいるバンクスの部隊を警戒させ、ハーパーズ・フェリーから退却しました。シールズとフリーモントの部隊は、ジャクソンよりもストラスバーグに接近していましたが、行動は鈍く、ジャクソンの部隊は、北軍の包囲を逃れることができました。6月8日、フリーモント軍はクロスキーズでイーウェル師団と遭遇しました。激しい戦闘の結果、北軍は退却しました。ジャクソンはフリーモントよりもシールズの部隊を脅威だと感じていました。

ポート・レパブリックの戦い (6月9日)

ジャクソンは、6月9日にポート・レパブリックでシールズ師団の一部を撃破しました。これにより、ジャクソンはバレーにおける一連の戦闘を勝利で締めくくりました。

作戦の終結

クロスキーズとポート・レパブリックでの勝利の後、北軍は撤退しました。ジャクソンはバージニア半島のリー将軍の部隊に合流し、七日間の戦いを戦いました。バレー方面作戦において、ジャクソンは、マクレラン軍を増援するために必要な50,000名以上の北軍兵力を拘束することに成功しました。

この作戦の成功で、「ストーンウォール」ジャクソンは、南軍でも最も有名な軍人となり、その勝利は南部の大衆の士気を高めました。48日間で646マイル (1,040 km) を行軍し、わずか17,000名の部隊で60,000名の敵を相手に、5つの重要な勝利を収めたジャクソンの戦略眼と機動性は、軍事史において特筆すべきものです。

北軍では、指揮系統の刷新が行われ、ジョン・ポープ少将の下に統一的なバージニア軍が創設されました。しかし、この軍は後に、北バージニア方面作戦でリーとジャクソンに大敗を喫することになります。

まとめ

バレー方面作戦は、ストーンウォール・ジャクソンの軍事的才能を世に知らしめた戦いです。少数精鋭の部隊を率いて、大胆かつ迅速な機動戦を展開し、北軍の大部隊を翻弄しました。この作戦は、南北戦争の帰趨に大きな影響を与えただけでなく、その後の軍事戦略にも大きな影響を与えました。

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