バンテアイ・クデイ

バンテアイ・クデイ：静寂に包まれたアンコールの仏教寺院

バンテアイ・クデイは、カンボジアのアンコール遺跡群に位置する、12世紀後半から13世紀初頭にかけてジャヤーヴァルマン7世によって建立された仏教寺院です。「チャンバ族の砦」や「僧房の砦」とも呼ばれ、その歴史と静けさが訪れる人々を魅了します。

位置と環境

バンテアイ・クデイは、アンコール遺跡公園内のタ・プロームの南東、アンコール・トムの東に位置しています。この地域は、かつてクメール王朝の中心地として栄え、多くの寺院が点在しています。バンテアイ・クデイは、アンコール・トムの東約3km、タ・プロームの東塔門から約600mの場所にあり、周辺は豊かな自然に囲まれています。

歴史

クメール王朝は、802年から1431年までの長きにわたり、ヒンドゥー教と仏教が交互に隆盛しました。12世紀後半には、ジャヤーヴァルマン7世が即位し、仏教を深く信仰しました。彼は、多くの寺院を建立し、その中でもバンテアイ・クデイは、タ・プロームやプリヤ・カーンと共に重要な寺院として知られています。ジャヤーヴァルマン7世は、チャム族の侵攻を打ち破り、アンコールを復興させた「偉大な建造者」と称えられています。

バンテアイ・クデイは、ジャヤーヴァルマン7世の治世中に建立されましたが、その正確な時期は碑文の欠落により不明です。しかし、アンコール・ワットとの類似点やタイのピマーイ寺院との関連性から、同時期に建てられたと考えられています。また、一説にはジャヤーヴァルマン2世によって宗教的な師を記念して建てられたとも言われています。

13世紀には、ジャヤーヴァルマン7世が建立した寺院の多くが破壊されましたが、バンテアイ・クデイには、大乗仏教の破風やまぐさが残されています。クメール王朝の衰退と共に、寺院は長い間放置され、植物に覆われていました。1920年代に周囲の植物が取り除かれ、寺院の姿が再び現れました。その後、修復作業が行われましたが、1960年代まで一部が僧侶によって占有されていた時期もありました。

1991年からは、日本の調査団が考古学調査を実施し、多くの仏像を発掘しました。これらの調査によって、寺院の歴史と構造が明らかになり、シハヌーク・イオン博物館には、発掘された仏像が展示されています。

構造

バンテアイ・クデイは、ラテライトと砂岩で造られた複合的な構造物です。東西700メートル、南北500メートルの外周壁に囲まれ、その内側に3つの周壁が配置されています。中心となる祠堂部分は、65×50メートルの回廊で囲まれています。

外周壁

外周壁は、タ・プロームと同様に、4つの塔門を持ち、各塔門には観音菩薩の四面像が配置されています。東側の塔門は特に保存状態が良く、ガルーダ像が四隅に飾られています。外周壁の西には濠があり、ライオン像やナーガの欄干で装飾されたテラスがあります。

第3周壁

第3周壁は、十字形の塔門を持ち、アーチ型の天井が柱で支えられています。壁龕には、アプサラスやデヴァターの彫刻が施されています。東側の塔門からは、ナーガの欄干を持つ通路が続き、祠堂へと繋がっています。

第2周壁

第2周壁は、祠堂の一部であり、東側と西側に塔門があります。中庭にはアプサラス像が装飾され、中央の間には仏像が安置されています。バイヨン様式の特徴である、覆いの下げられた連子のある偽窓や、デヴァターの彫刻も見られます。

内周壁

内周壁は、36×30メートルの配置で、小さな塔門を持つ4隅に塔があります。回廊が主祠堂と繋がり、北東と南東の塔は、仏坐像のある第2回廊と繋がっています。主祠堂は、2.75メートル四方の回廊で、神々の彫像の痕跡が見られます。

スラ・スラン

バンテアイ・クデイの東には、スラ・スランという貯水池があります。10世紀のラージェンドラヴァルマン2世によって掘られ、東西700メートル、南北300メートルの大きさです。池のほとりには階段が設けられ、ナーガの欄干やライオン像が飾られています。かつては王やその妻が沐浴に使用し、池の中央には木造の寺院がありました。現在では、地域の農民が稲作に利用しています。

建築の特徴

バンテアイ・クデイは、バイヨン様式の特徴が色濃く表れています。特に、屋根を支える柱が十字形になるように造られ、木造建築に見られる「ほぞ穴とほぞの接合」を用いて壁に接続されている点が注目されます。柱には仏像の彫刻が施されていますが、多くが損傷しています。

修復

近年、バンテアイ・クデイは、カリフォルニア大学や上智大学などの協力のもとで修復が進められています。レーザースキャンや画像化技術を用いて、構造物の詳細なデータが収集され、修復や復元に役立てられています。アプサラ機構も、遺跡の管理と保全に力を入れていますが、現在も一部の区域は修復中のため、立ち入りが制限されています。

バンテアイ・クデイは、その歴史と静寂な雰囲気から、アンコール遺跡群の中でも特別な存在です。修復作業が進む中で、その魅力はさらに深まり、訪れる人々を魅了することでしょう。

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