パウロ派 (中世)

パウロ派：中世アルメニアのキリスト教分派

パウロ派は、7世紀にアルメニアで誕生したキリスト教の一派です。信徒たちは自らを「善きキリスト教徒」と呼びました。しかし、その教義の詳細は現代にはほとんど伝わっていません。グノーシス主義、マルキオン主義、マニ教、養子論など、様々な思想の影響を受けていたと考えられています。

起源と拡大

パウロ派の創始者は、コンスタンティノスという名のアルメニア人とされています。彼はサモサタ近郊の出身で、福音書や使徒書簡を研究する中で、既存のキリスト教会の形式主義を批判し、独自の教義を打ち立てました。コンスタンティノスは、使徒パウロの純粋なキリスト教の復興を掲げ、自らをシラスと名乗りました。

660年頃、コンスタンティノス＝シルヴァノスは、アルメニアのキボッサに最初の信徒組織を設立しました。しかし、その27年後、ビザンツ帝国当局に異端として逮捕され、石打ちの刑に処されました。興味深いことに、彼の処刑を担当したシメオンという役人が、後にパウロ派に改宗し、指導者となりました。

その後も、パウロ派は指導者を変えながら、東アナトリアを中心に勢力を拡大していきました。747年には、コンスタンティノス5世によって、多くの信者がトラキアへ強制移住させられ、ヨーロッパへと広がっていきました。

パウロ派国家の樹立と崩壊

843年、ビザンツ帝国による大規模な迫害を受け、多くのパウロ派信徒がカルベアスに率いられてアラブ支配地域へ亡命しました。彼らは、メリテネのアミールの庇護のもと、テフリケを中心に独立国を樹立しました。

カルベアスの後継者クリュソケイルは、ビザンツ帝国との戦争を続けましたが、872年または878年に戦死。その後、ビザンツ帝国によってテフリケは制圧され、パウロ派国家は崩壊しました。

強制移住と同化

パウロ派国家の崩壊後、多くの信徒がビザンツ帝国の西方辺境へ強制移住させられました。一部はアルメニアへ逃れ、トンドラク派と同化しました。トラキアへ移住した人々は、信仰を維持しながらも、次第に他の宗教・宗派へ同化していき、現代のバナト・ブルガリア人やポマクの祖先になったと考えられています。

信仰と教義

パウロ派の教義は、断片的な情報から推測するしかありません。二元論的な世界観を持ち、旧約聖書の一部を拒否し、聖母マリア崇敬を否定したとされています。また、十字架や儀式、教会組織を否定する傾向もみられました。しかし、彼らの信仰は、時代や地域によって変化し、多様な解釈が存在したと考えられます。

後世への影響

パウロ派の運動は、中世ヨーロッパの異端であるボゴミル派やカタリ派に影響を与えたとされています。また、宗教改革の先駆者として評価する歴史家もいます。

パウロ派の歴史は、激しい迫害と抵抗、そして同化の歴史でした。その信仰は、現代に直接受け継がれているわけではありませんが、中世ヨーロッパの宗教史に大きな足跡を残しました。

参考文献

Garsoïan, Nina G. (2011) [1967]. The Paulician Heresy: A Study of the origin and development of Paulicianism in Armenia and the Eastern Provinces of the Byzantine Empire.
Runciman, Steven (2009) [1982]. “CHAPTER III - The Paulicians”. The Medieval Manichee: A Study of the Christian Dualist Heresy.

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