パタラ

パタラ：古代リュキアの港湾都市

パタラ（Patara）は、かつて小アジアのリュキア地方に位置した、重要な港湾・商業都市です。現在のトルコ、アンタルヤ県のゲレミシュ近郊にその遺跡が残っています。古代にはアルシノエ（Arsinoe）とも呼ばれていました。この都市は、リュキア連邦の首都であり、聖ニコラオス（サンタクロースのモデル）の生誕地としても知られています。

歴史

パタラは天然の良港に恵まれ、アポロンの息子パタルスによって建設されたという伝説があります。古代にはアポロン神殿と神託で知られ、アポロンは「パタレウス」という別名でも呼ばれていました。ヘロドトスによれば、アポロンの神託は特定の時期に女神官によって伝えられたとされています。おそらく、パタラはドーリア人によってクレタ島経由で植民され、アポロン信仰もドーリア人によってもたらされたと考えられています。

パタラはリュキアの主要都市の一つであり、重要な港湾都市でした。リュキア連邦においては、最大の3票を投じる権利を持つ指導的な地位にありました。

紀元前333年、パタラはアレクサンドロス大王の軍に降伏しました。ディアドコイ戦争では、アンティゴノス1世やデメトリオス1世によって占領され、最終的にはエジプトのプトレマイオス朝に属しました。ストラボンによれば、プトレマイオス2世はパタラを拡張し、姉であり妻でもあるアルシノエ2世にちなんでアルシノエと改名しましたが、一般にはパタラの名前で呼ばれ続けました。

紀元前196年、セレウコス朝のアンティオコス3世大王がリュキアに領土を拡張し、パタラを征服しました。その後、ローマとセレウコス朝の平和条約により、リュキアはローマの同盟国ロドス島に支配されましたが、紀元前167年にパタラはリュキアの他の都市と同様に独立を認められ、リュキア連邦が成立しました。紀元前88年、第一次ミトリダテス戦争でポントス王国のミトリダテス6世が小アジア全域に進出し、パタラも包囲占領されました。ブルータスとカッシウスがマルクス・アントニウスやオクタウィアヌスら第二回三頭政治軍と戦った際には、パタラはブルータスやカッシウスの軍によって占領されました。この時、近隣のクサントスは破壊されましたが、パタラは難を逃れました。その後も続いていたリュキア連邦は、43年に正式にローマ帝国へと併合され、パンフィリアと合併してリュキア属州となりました。

パタラは新約聖書（使徒行伝）にも登場し、パウロ一行がロドス島からフェニキア行きの船に乗り換えた場所として描かれています。比較的早い時期にキリスト教化され、パタラのメトディオスなどが主な主教を務めました。4世紀から9世紀の公会議には、パタラからの主教も出席しています。ミラのニコラオス（聖ニコラオス）は300年ごろにパタラで生まれたとされています。

東ローマ帝国の時代にも、パタラは交易や巡礼の経由地として一定の重要性を保っていました。しかし、東ローマとテュルクの抗争が激化すると、パタラは見捨てられ廃墟となりました。ローマ・カトリック教会は、現在でもパタラに名義司教を置いています。

遺跡

パタラの遺跡には、今もなおパタラの名前が刻まれた場所が数多く残っています。遺跡はクサントス川の河口東側の海岸に位置し、小さな丘の北側には劇場、斜面には神殿があります。また、神託を得るために神官が使用したと思われる深い円形の穴も発掘されています。市壁は広範囲にわたって残っており、その跡をたどることができます。市壁を守る塔や、港を見張る城塞の跡も確認できます。市壁の外には、サルコファガス（石棺）が多数存在し、多くには碑文が刻まれていますが、内部は空になっています。市壁内部には、神殿、祭壇、台座、彫刻などの廃墟や破片が散見されます。かつての港の位置は現在も明確ですが、砂が堆積し、植物が繁茂する湿地帯となっています。

円形劇場（アンフィテアトルム）は、ローマのアントニヌス・ピウス帝の時代に建設されたもので、直径265フィート、30段の座席があります。ローマ浴場の廃墟もあり、碑文によれば皇帝ウェスパシアヌスの時代に建てられたものです。

遺跡の発掘調査は、トルコの考古学チームによって毎年夏に行われています。2007年末には、劇場跡などの土砂が取り除かれ、倒れていた大通りの列柱も部分的に修復されました。発掘の結果、石造りの部分が良好な状態で残っていることが確認されています。

遺跡の近くには、全長18キロメートルにも及ぶ長い砂浜があり、国内外から多くの観光客が訪れます。エーゲ海から地中海に至るトルコ南西部の海岸は、「トルコのリビエラ」（ターコイズコースト）と呼ばれ、海岸だけでなくパタラなどの遺跡も観光地として人気を集めています。

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