パルナッソス (プッサン)

ニコラ・プッサンの傑作「パルナッソス」

「パルナッソス」（または「アポロとミューズ」）は、17世紀フランスの巨匠ニコラ・プッサンが1631年から1633年にかけて制作した油彩画です。この作品は、スペイン・ブルボン家のフェリペ5世が1714年に獲得し、現在はマドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の背景と特徴

この絵画は、バチカン宮殿にあるラファエロのフレスコ画「パルナッソス」に触発された作品であり、そのバランスの取れた構図と柔和な色彩はラファエロへの賛辞と見なされています。美術史家エルヴィン・パノフスキーは、この作品がプッサンのローマ時代の恩人であった詩人ジャン・バッティスタ・マリーノへのオマージュであると指摘しています。

パルナッソス山は、文芸と文学の神アポロンの神託所デルフォイの北東に位置し、アポロンと9人のミューズたちが集う場所です。プッサンは、この神聖な場所に9人の詩人が訪れる場面を想像して描きました。前景には、その水を飲んだ者に霊感を与えると言われるカスタリアの泉があり、横たわるニンフはその泉の化身です。ニンフは右手に壺を持ち、これは彼女のアトリビュート（人物を特定する事物）です。また、前景にいるプットたちは泉の水を詩人たちに捧げています。

詳細な描写

画面の一番高い場所に座るアポロンは、跪く詩人マリーノに神の飲み物であるネクタールを差し出しています。マリーノは、アポロンの左隣にいる叙事詩のミューズ、カリオペから知恵の象徴である月桂樹の冠を授けられています。マリーノは手に自身の著書である『アドーネ』と『嬰児虐殺』の二冊を抱え、アポロンに捧げています。マリーノの頭部の横には牧羊神パンの笛パイプが見えますが、これは彼の抒情詩『ザンポーニャ』を暗示し、空中に舞うプットが手にしているリラ・ダ・ブラッチョノは、彼の作品『ラ・リラ』を物語っています。

後景には、ミューズたちが描かれています。左から順に、喜劇のタレイア（仮面を持つ）、天文術のウーラニアー（星の光る杖を持つ）、歴史のクレイオー、悲劇のメルポメネー（仮面を持つ）、舞踊のテルプシコラー（踊る姿）、抒情詩のエラトー、讃歌のポリュムニアー、音楽のエウテルペー（牧羊神の笛パイプを持つ）、そして叙事詩のカリオペです。マリーノ以外にも、前景には月桂樹の冠を被った8人の詩人が描かれており、その中にはサッフォー、ホメロス、ウェルギリウスなどの著名な詩人がいます。

作品の意義

「パルナッソス」は、プッサンの古典主義的なスタイルと、文学や芸術への深い理解が結実した作品と言えるでしょう。詩人たちの創造性を祝福し、神話の世界と現実の世界を融合させたこの作品は、見る者に深い感動を与えます。

この作品は、プッサンの才能を物語るだけでなく、文学と芸術の調和の象徴としても高く評価されています。古典的なテーマを扱いながらも、プッサン独自の解釈と表現が加わっており、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

国立プラド美術館『プラド美術館ガイドブック』国立プラド美術館、2009年。ISBN 978-84-8480-189-4。
辻邦生・高階秀爾・木村三郎『カンヴァス世界の大画家14 プッサン』、中央公論社、1984年刊行 ISBN 4-12-401904-1
W.フリードレンダー 若桑みどり訳『世界の巨匠シリーズ プッサン』、美術出版社、1970年刊行 ISBN 4-568-16023-5

外部リンク

プラド美術館公式サイト、プッサン『パルナッソス』 （英語）

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