パンの会

パンの会の概要と歴史

パンの会（ぱんのかい）は、明治時代末期に誕生した青年文芸と美術の懇談会であり、特に20代の芸術家たちによって形成されました。この会の名前は、ギリシア神話に登場する享楽の神「パン」に由来し、芸術運動としての位置付けを象徴しています。1894年にベルリンで始まった同様の運動から影響を受けていたこのグループは、東京をパリに、大川（隅田川）をパリのセーヌ川になぞらえ、月に数回、西洋料理店で集まっていました。

芸術家たちの交流

パンの会のメンバーには、詩人の北原白秋や木下杢太郎、長田秀雄、さらに美術同人誌『方寸』に関わっていた画家たちも名を連ねていました。彼らは文学と美術の交流を深めることを目指し、そのためにカフェのような集まりの必要性を感じていました。木下杢太郎が会場を探し、1908年12月には隅田川の近くにある「第一やまと」で第1回の会合を開催しました。

その後、欧米から帰国した高村光太郎も加わり、さらに多くの文学者や芸術家が参加するようになりました。参加者には、上田敏や永井荷風、俳優の市川左団次や市川猿之助もおり、まさに耽美派の拠点としての様相を呈しました。記念の作品として、白秋の詩『東京景物詩』や杢太郎の『食後の唄』が生まれました。

盛り上がりとその変化

会合は次第に賑やかさを増し、酒を交えた放埓な宴へと発展していきました。しかし、1909年には社会主義者と誤解され、警察の注意を受ける騒動もありました。集まった芸術家たちは、自由な発想と意見交換を楽しむ場としてのパンの会の重要性を理解していました。

黒枠事件と会の終焉

1910年11月、パンの会は盛大な会合を開催しました。この集まりは石井柏亭の外遊と長田秀雄と柳啓介の入営を祝うもので、多くの関係者が参加しました。しかし、会場に掲げられた「祝長田君・柳君入営」という貼り紙に、高村光太郎が描き加えた黒枠が原因で、「非国民の会」として報道されてしまいました。この出来事は「黒枠事件」として知られるようになります。

この事件の影響もあり、パンの会は次第に活力を失っていきました。1913年頃まで続いたものの、その運営は明治末期の終焉を迎えることとなります。

文化史への影響

短い期間ではありましたが、パンの会は自然主義に対抗するロマン主義的運動として、文化史にその名を刻みました。この時期は、小山内薫の自由劇場や雑誌『三田文学』、『新思潮』や『白樺』の創刊といった、文芸分野での新たな動きが相次いで現れた時でもあり、カフェー・プランタンの開店もその一環でした。

パンの会は、文化的対話や仲間との交流を通じて新しい芸術思想を探求し、日本の近代アートシーンに重要な一歩を刻んだと言えるでしょう。

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