パンツァーシュレック

パンツァーシュレック：ドイツの対戦車ロケット擲弾発射器

パンツァーシュレック（Panzerschreck）は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍が使用した対戦車ロケット擲弾発射器の通称です。正式名称はRaketenpanzerbüchse（略称RPzB）で、「ロケット対戦車筒」を意味します。形状がストーブの煙突に似ていたため、“Ofenrohr”（オーフェンローア：オーブン（ストーブ）の煙突）とも呼ばれました。

開発と特徴

パンツァーシュレックは、チュニジア戦で鹵獲したアメリカ軍のM1バズーカを参考に開発されました。自軍の8.8cmロケット弾を使用できるように設計されたのが特徴です。開発時期はパンツァーファウストよりわずかに遅れて1943年初頭とされています。

初期の量産型であるRPzB 43は、ロケットの燃焼ガスが射手に吹き付けるという欠点がありました。そのため、射撃にはガスマスクと手袋の着用が必須でした。通常、1つの発射機に対して7発のロケット弾が割り当てられました。ロケット弾は、気温によって推進剤の燃焼速度が変化するため、夏用と冬用があり、照星もそれに応じて調整可能でした。ロケット弾の速度は105m/秒に達し、実用有効射程は150-180mでした。

M1バズーカの口径が60mmで装甲貫徹力が100mmであったのに対し、パンツァーシュレックは口径88mmで、装甲貫徹力は垂直入射で230mm、60度の角度で160mmでした。これは、当時のほぼ全ての戦車の正面装甲を貫徹できる威力でした。また、発射方式もM1バズーカの乾電池式に対し、ダイナモを用いた電気点火方式を採用していました。

改良と生産

1943年後半には、照準用の雲母製透明小窓付きの防盾が装着されたRPzB 54が開発されました。しかし、防盾に貴重なアルミ合金を使用できなかったため、鉄製となり重量が増加しました。そのため、戦場では防盾を取り外してガスマスクを着用し続ける兵士もいました。1944年には、全長を短縮し軽量化されたRPzB 54/1が開発され、合計314,895基の発射機と2,218,400発のロケット弾が生産されました。

パンツァーシュレックは、パンツァーファウストと比較されることがあります。パンツァーファウストは、国民擲弾兵や国民突撃隊のような練度の低い兵士でも扱いやすい近接戦闘用の兵器でしたが、パンツァーシュレックは専門の訓練を受けた戦車猟兵向けの装備として運用され、より長射程での対戦車攻撃が可能でした。しかし、使い捨てのパンツァーファウストに対し、パンツァーシュレックは重く、射撃後の素早い移動が困難でした。

使用弾薬

パンツァーシュレックで使用された主な弾薬は以下の通りです。

8.8cm Raketenpanzerbüchse Granate 4322/4992
全長：649mm
胴部直径：87.3mm
重量：3.3kg
初速：104m/秒
弾頭炸薬重量：0.667kg
有効射程：151m
最大射程：201m

自走砲化

鹵獲したイギリス軍のユニバーサル・キャリアにパンツァーシュレックを3連装で搭載した「Panzerjäger Bren 731(e)」が東部戦線に投入されました。同様に、Sd Kfz 251装甲兵員輸送車やキューベルワーゲンに搭載した例もありました。大戦末期には、ボルクヴァルトB IV C型に6連装で搭載した簡易対戦車自走砲も作られ、ベルリン攻防戦に参加しました。

発展型

1944年8月には、射程と威力の増大を目指した口径10.5cm型のパンツァーシュレックが計画され、試作されました。最初のタイプは重量過大で不採用となり、次に短縮型が作られましたが、これも採用には至りませんでした。

8cm RfW 43

パンツァーシュレックとは別に、大戦中に試作された口径10.5cmの携帯型対戦車兵器として“Rückstoßfreiwerfer”がありました。これは「パンツァートート」または「ハンマー」と呼ばれ、無反動砲とロケットランチャーの中間的な兵器でした。パンツァーシュレックに比べ総重量45kgと重く、個人での携行には不向きでしたが、砲身を分解して3人で運搬可能でした。1945年に入り量産が試みられましたが、終戦までに間に合わず、実戦投入はされませんでした。

パンツァーシュレックは、大戦中のドイツ軍歩兵部隊にとって重要な対戦車兵器であり、その後の対戦車兵器の開発に大きな影響を与えました。

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