パンノニアサウルス

パンノニアサウルス：淡水に適応したモササウルス

パンノニアサウルス（学名: Pannoniasaurus）は、後期[[白亜紀]]サントニアン期のハンガリーに生息していた、モササウルス科テティサウルス亜科に属する絶滅した爬虫類です。この属には、Pannoniasaurus inexpectatusという単一種のみが知られています。

発見と産地

パンノニアサウルスの化石は、ハンガリー西部のバコニー・ヒルズにあるイハールクート露天掘り式ボーキサイト鉱山、およびアイカの炭鉱廃棄場から発見されました。これらの化石は、チェバーニャ累層の氾濫原堆積層から産出しており、様々な成長段階の個体が含まれています。100を超える骨が発見されており、これらの標本はすべてハンガリー自然史博物館に保管されています。

形態と特徴

パンノニアサウルスは中型のモササウルス科で、最大全長は約6メートルと推定されています。他のモササウルス類と比較して、原始的な特徴を多く持っています。例えば、吻部が前方に突出していないこと、前頭頭頂骨の縫合線が直線に近いこと、方形骨の翼状凹面が浅いことなどが挙げられます。また、あぶみ骨の溝が長く、幅の3倍以上であることも特徴です。これらの特徴は、パンノニアサウルスがより初期のモササウルス類の特徴を保持していることを示唆しています。

パンノニアサウルスの化石は、頭骨、椎骨、歯、四肢など、様々な骨格要素から構成されています。これらの化石はすべて分離した状態で発見されていますが、密度、大きさ、類似性、特異的な特徴などから、同一の分類群に属すると判断されています。

上顎骨には12個の歯槽が確認されており、本来はより多くの歯が並んでいた可能性があります。歯は円錐形で、後方に湾曲しており、縦の線が入っています。歯の特徴は、ハリサウルスにも類似が見られます。

分類

系統解析の結果、パンノニアサウルスはテティサウルス亜科に分類され、テティサウルス、ヤグアラサウルス、ラッセロサウルスと姉妹群の関係にあることが示されています。テティサウルス亜科は、より基盤的なアイギアロサウルス科のグループと近縁であると考えられています。また、この研究により、海生モササウルス類の水棲適応は収束進化によるものである可能性が示唆されました。

パンノニアサウルスの発見は、モササウルス上科が短期間で多様な水中環境に適応し、一部のグループが淡水域に進出して特殊化したことを示しています。このことは、クジラ目の進化と同様に、モササウルス類が多様な環境に適応する能力を持っていたことを物語っています。

古生態学

パンノニアサウルスは、他のモササウルス科とは異なり、主に淡水環境に生息していたと考えられています。同位体分析の結果、海水域と淡水域を移動するのではなく、恒久的に淡水域に生息していたことが示唆されています。幼体から成体までの様々な成長段階の化石が発見されていることからも、河川での生活が一過性のものではなかったことが示唆されます。また、パンノニアサウルスは、当時知られている最大の淡水捕食動物であり、ワニのような平たい頭骨は、水面に潜んで陸上や浅瀬の獲物を狩るのに有利な適応でした。吻部の先端が四角形であることや、尾ビレが発達していなかったことも特徴です。

四肢

パンノニアサウルスの四肢の構造を正確に推定することは困難ですが、椎骨の形状や骨盤の形状から、アイギアロサウルス科に近い形態だったと推測されています。腸骨は後方を向いており、上腕骨は遠位骨端が細長く伸びています。パンノニアサウルスは原始的な軸骨格と骨盤を持ち、四肢も原始的な形態をしていた可能性があります。現生のワニのように、頑強な仙椎と骨盤、そしてヒレ状ではない四肢が、川底を移動するのに役立っていたと考えられます。また、短時間であれば陸上を歩行することも可能だった可能性があります。

まとめ

パンノニアサウルスは、他のモササウルス類とは異なる淡水生態系に適応した特異なモササウルスです。その形態、分類、生態は、モササウルス類の進化史を理解する上で重要な情報を提供しています。パンノニアサウルスの発見は、モササウルス類が多様な環境に進出し、高度な適応を遂げたことを示す好例と言えるでしょう。

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