ヒトカラ

ヒトカラとは

「ヒトカラ」とは、「一人カラオケ」を略した俗語です。一人でカラオケを楽しむことや、歌の練習を目的として一人でカラオケに行くことを指します。株式会社エクシングが商標登録していますが、同社が「ヒトカラ」という名前で商品やサービスを提供しているわけではありません。「ひとカラ」と表記されることもあります。

概要

カラオケは一般的に複数人で楽しむものというイメージが強いですが、2000年代中盤から、歌の練習やストレス解消を目的として一人でカラオケを楽しむ人が増え始めました。この背景には、「おひとりさま」文化の流行、音楽の趣味の多様化、カラオケボックスの料金体系の変化、カラオケ機器の多機能化などが複合的に影響しています。2003年頃には「ヒトカラ」という言葉が一部で使用され始め、当初はセガのカラオケ関連サービスの名称としても使われていました。

利用者側からは「一人では利用しづらい」、店舗側からは「一人での利用は採算性が良くない」という見方もあります。しかし、1990年代後半からカラオケ市場が伸び悩む中で、一人客の割合は全体の2〜3割を占めるほどになっています。2011年以降は、ヒトカラの需要増加を見込んで、一人カラオケ専門店が開業したり、通常のカラオケ店に一人客専用ルームが設置されたりする動きも出てきました。

語義

「一人でカラオケボックスを利用すること」や「一人でカラオケを歌って楽しむこと」を「一人カラオケ」と総称し、それをさらに略したものが「ヒトカラ」です。単に「一人だけでカラオケを楽しむこと」の略語とも言えます。ヒトカラをする人は「ヒトカラー」と呼ばれることがあります。また、2人でカラオケをする場合は「フタカラ」、多人数でのカラオケは「タカラ」と呼ぶこともあるようです。

発祥

「一人カラオケ」という言葉自体は、1990年代前半にはすでに使用例がありました。1991年にはトヨタ自動車が「カラオケメット」を紹介し、1995年には毎日新聞が一人でカラオケルームの割引券をもらえない状況を報じています。1989年から1990年代前半の新聞記事にも、一人でカラオケボックスを利用する人がいることが報道されています。

「ヒトカラ」という言葉は、2003年頃に電子掲示板の2ちゃんねるで発祥したとされています。カラオケボックス「歌広場」の従業員も同時期に「ヒトカラ」という言葉を使う顧客がいたと証言しています。2000年代前半の報道では、一人でカラオケを利用する人が増えていることが報じられています。

2004年には、セガが一人客向けのカラオケサービスを開始する際に「ヒトカラ」の名称を採用しました。

歴史

前史

一人でカラオケを利用する人は昔から存在しましたが、1985年に日本初のカラオケボックスが登場し、1988年から本格的に流行した頃には、一人で利用する人は少数派でした。1989年から1990年代前半の新聞報道では、一人でカラオケボックスを利用する人の存在が確認されています。

1990年代前半には、カラオケは「大人数で楽しむもの」「コミュニケーションツール」という認識が強く、一人でカラオケをする人は「怪しい人」と見なされることもありました。カラオケボックスの料金体系も部屋単位であったため、一人で利用すると割高になることも、一人利用が少ない理由でした。

流行

2002年頃から、カラオケボックスの料金体系が人数単位に移行し始め、一人でも利用しやすくなりました。また、「おひとりさま」文化の流行や、女性芸能人がブログで「ヒトカラ好き」を公言したことも、ヒトカラが広まるきっかけとなりました。2003年には、カラオケ店が一人での利用に関する問い合わせに対応し始め、2004年にはヒトカラ向けの割引サービスが登場しました。2008年以降、カラオケチェーン店では、ヒトカラの利用者が2〜3割程度を占めるようになりました。

海外での認識

英語圏のニュースサイトでも「hitokara」という単語が使われることがありますが、海外では、特にアジア諸国でも一人でカラオケをするのは一般的ではありません。中国では、「絶対にありえない光景」と報じられたこともあります。

目的

ヒトカラを行う主な動機・目的は以下の通りです。

歌唱力の上達、新曲や難易度の高い曲の練習
ストレス発散
他人を気にせず好きな曲を歌いたい
自分に合ったキー設定を確認したい
複数人での選曲の気疲れを避けたい
一人の方が同じ料金でより多くの曲を歌える
健康目的
カラオケ好きの仲間がいない
他人に聞かせる自信がない

他にも、適当な振り付けで歌いたい、音痴である、ダイエット目的、暇つぶしなどの理由もあります。以前は練習の成果を大勢の前で披露する目的が多かったのに対し、近年は「自己完結型」の楽しみ方が主流になっています。

利用者

性別・年齢層

ヒトカラの利用者は、学生から主婦、高齢者まで幅広く、特に10代から30代、および高齢者に多い傾向があります。アンケート調査では、20代の女性の利用率が高いことが示されています。

利用状況

複数人で来店しても、一人ずつ別の部屋で歌うという利用方法もあります。最初は一人で入店することに抵抗を感じても、一度慣れると気にならなくなる人が多いようです。アニメソングやバラード、女性アイドルの楽曲が人気です。

カラオケ機器の撮影動画を投稿するサービスでは、一人で歌う動画が多く見られ、コラボ動画を作成する機能も利用されています。ギターなどの楽器を持ち込んで利用する人もおり、カラオケ配信業者のSNSを通じて、新たなコミュニケーションの形も生まれています。

カラオケルームは歌うだけでなく、読書や睡眠、仕事など、様々な目的で利用されています。

店舗側から見た「ヒトカラ」

ヒトカラは、店舗にとって採算性が良くないため、歓迎するかどうかは店舗によって異なります。一人客向けの料金設定が高く設定されていることもあります。しかし、ヒトカラはリピート率が高く、空室を抱えるよりは良いという考え方もあります。

2018年には、シダックスがカラオケ事業から撤退し、ヒトカラなどの新しい顧客ニーズに対応できなかったことが理由の一つとされています。

「ヒトカラ」専門店の誕生

通信カラオケメーカー・複合カフェによる参入

最初にヒトカラ需要に着目したのはセガで、2004年に複合カフェと提携してヒトカラ専用ルームの実証実験を開始しました。1.5畳ほどの個室にパソコンを設置し、ヘッドホンを使用する形式でした。しかし、大幅な普及には至りませんでした。

カラオケ店による参入

2011年、コシダカホールディングスが一人カラオケ専門店「ワンカラ」をオープンし、その後、他のカラオケ店もヒトカラ用ルームを設置するようになりました。ヒトカラ専門店では、小部屋にモニター、ミキサー、スタンドマイクが設置され、ヘッドホンで音楽を聴く形式が一般的です。女性専用の部屋もあり、利用料金は高めですがリピーターが多いです。

その他

タイトーが発売した「ちょいKARA」は、電話ボックスのような少人数向けのカラオケシステムで、ゲームセンターなどに設置されています。

商標としての「ヒトカラ」

「ヒトカラ」はエクシングの登録商標です。かつてはセガの関連商品で使用されていましたが、商標権は移転しました。一人カラオケ専門店や専用ルームでは、さまざまな商標が登録・使用されています。

流行の背景

料金体系・機器側による要因

カラオケボックスの料金体系が部屋単位から人数単位に変化したこと、精密採点などのカラオケ機器の多機能化がヒトカラの増加に影響しました。

楽曲による要因

音楽の趣味の多様化や、広い世代で共有できるヒット曲が少なくなったことも、ヒトカラが流行した要因の一つと考えられます。

利用者側による要因

若者の「周囲の空気を読む」気質への反動、インターネットや携帯電話の普及により他人と繋がる機会が増えたことで、一人で自由に行動したい欲求が高まったことが挙げられます。また、「一人焼肉」などのように、他人と触れ合わないマイペースな消費が若年層で広まっていることも、ヒトカラ流行の背景にあると考えられています。

精神科医の香山リカは、ヒトカラが純粋に歌うことを楽しむ人が増えていることの表れだと分析しています。

脚注

注釈

出典

参考文献

前川洋一郎『カラオケ進化論－カラオケはなぜ流行り続けるのか』廣済堂出版、2009年。ISBN 978-4-331-51367-5。

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