ヒャルマル・シャハト

ホレス・グリーリー・ヒャルマル・シャハト：経済と政治の狭間を歩んだ生涯

ホレス・グリーリー・ヒャルマル・シャハト（1877年-1970年）は、20世紀ドイツの歴史において重要な役割を果たした経済学者、政治家、そして銀行家でした。彼の名前は、アメリカ人ジャーナリスト、ホレス・グリーリーに由来します。シャハトは、ドイツの経済政策に多大な影響を与え、その功績と複雑な政治的立場から、今日でも議論の的となっています。

若き日のシャハトと学究の道

シャハトは、現在のデンマーク領ティングレフで生まれました。両親は1870年代にアメリカに移住し、父はアメリカ市民権を取得しました。アメリカでのジャーナリズムに触れた経験が、シャハトの将来に影響を与えた可能性も指摘されていますが、定職を得られずドイツへ帰国した後は、キール、ベルリン、ミュンヘンの大学で経済学を学びました。ミュンヘン大学でのルヨ・ブレンターノの講義が、彼の経済学への関心を深めたきっかけとなりました。

シャハトは、ヴィルヘルム・ハスバッハの指導の下、博士論文「イギリス重商主義理論小史」を執筆し、1899年に博士号を取得しました。この論文は、後にグスタフ・フォン・シュモラーからも高く評価され、出版に至りました。

ドレスナー銀行からライヒスバンク総裁へ

1903年、シャハトはドレスナー銀行に入社し、頭取に上り詰めます。この間、フリードリヒ・ナウマンやパウル・ロールバッハといった著名な人物と親交を深め、フリーメイソンにも加入しました。1916年には、私立銀行であるドイツ国家銀行の頭取に就任しますが、第一次世界大戦中には通貨偽造スキャンダルに巻き込まれるなど、波乱の時代を経験します。

1923年、ルール地方占領によるハイパーインフレの深刻化を受け、シャハトはライヒ通貨委員に任命されました。彼はレンテンマルクを発行し、マルクの信用回復に成功、その後ライヒスバンク総裁に就任します。ドーズ委員会との交渉にも参加し、ドイツ経済の安定化に貢献しました。

世界恐慌とナチス政権への接近

世界恐慌が勃発すると、シャハトは政府の財政政策に反対し、ライヒスバンク総裁を辞任します。しかしその後、彼はナチ党に接近し、ヒトラーに経済政策面で助言を行いました。ナチス政権下では再びライヒスバンク総裁に就任し、メフォ手形制度を導入、軍事費の調達を行いました。シャハトの経済政策は、ナチスドイツの軍拡を支える役割を果たしました。

経済相としてのシャハトとナチスとの軋轢

1934年、シャハトは経済相に就任します。彼は市場経済の原理を重視し、大企業へのナチスの干渉を抑制しようと努めました。しかし、四カ年計画の推進で権力を増したゲーリングとの間では対立が深まりました。シャハトは、インフレ抑制のためメフォ手形の発行停止を求め、ヒトラーと対立しながらも、経済政策の舵取りに尽力しました。

ナチス政権との決別とニュルンベルク裁判

しかし、ゲーリングの台頭によって経済政策におけるシャハトの影響力は衰え、1937年に経済相を解任されました。1939年にはライヒスバンク総裁からも解任され、ヒトラー暗殺未遂事件への関与が疑われ逮捕されました。

ニュルンベルク裁判では、「侵略戦争の共同謀議」と「平和に対する罪」で起訴されましたが、無罪判決を受けました。裁判では、ナチス政権への協力を否定し、戦争回避に努めたと主張しました。彼の証言は、法廷に衝撃を与え、世界に大きな反響を呼びました。シャハトの主張の信憑性については、現在でも議論が続いています。

戦後と晩年

戦後は西ドイツで非ナチ化裁判にかけられましたが、無罪となりました。その後は、経済アドバイザーとして活躍し、93歳で亡くなりました。

シャハトの生涯は、経済学者としての卓越した能力と、政治的な判断の困難さを浮き彫りにするものです。彼の行動は、常に経済的合理性と政治的現実の狭間で揺れ動いていました。彼の複雑な生涯は、現代においても、歴史の解釈や政治的判断の難しさを考える上で、重要な教訓を与えてくれるでしょう。

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