ピアノ協奏曲 (矢代秋雄)

矢代秋雄：ピアノ協奏曲

矢代秋雄（1929-1976）によるピアノ協奏曲は、日本の近代音楽史において重要な位置を占める作品です。作曲家にとってピアノ協奏曲としては二作目にあたりますが、1947年に書かれた未発表作品は「第2番」とは銘打たれなかったため、この作品が事実上、彼の代表的なピアノ協奏曲として広く知られています。発表後、本作は第22回（昭和42年度）芸術祭放送部門にて芸術奨励賞を受賞したほか、優れた管弦楽曲に贈られる第16回尾高賞にも輝き、その音楽的価値が高く評価されました。

作曲の経緯

このピアノ協奏曲は、当時の文部省芸術祭のために、NHKが作曲家である矢代秋雄に委嘱したことにより生まれました。作曲は段階的に進められ、まず第1楽章が1964年から1966年夏にかけて書かれました。続く第2楽章と第3楽章は、1966年から翌1967年5月にかけて完成されています。約3年の歳月をかけて作曲されたこの作品は、矢代が自身の創作活動において一つの大きな到達点を示したと言えるでしょう。

初演

作品の初演は二つの形で行われました。放送のためのレコーディングは、1967年7月10日および11日にNHK放送センターにて実施され、同年11月5日にラジオを通じて放送初演を迎えました。この記念すべき演奏は、若杉弘指揮のNHK交響楽団、そしてピアノ独奏に中村紘子という、当時の日本を代表する音楽家たちによって行われました。

公開の場での初演は、放送初演から約3週間後の1967年11月29日、東京文化会館におけるNHK交響楽団の臨時演奏会にて実現しました。ここでも独奏は中村紘子が務め、指揮は森正が担当しました。これらの初演を通じて、作品は広く楽壇の注目を集めました。

楽器編成

この協奏曲は、独奏ピアノと二管編成を基本とするオーケストラのために書かれています。使用される楽器は以下の通りです。

木管楽器：フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、クラリネット2（うち1人はバスクラリネット持ち替え）、ファゴット2
金管楽器：ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1
打楽器：ティンパニ、ヴィブラフォン、その他打楽器2名（シンバル、タムタム、鈴、ウッドブロック、チューブラーベルなどを担当）
鍵盤楽器：独奏ピアノ
弦楽器：弦五部（ヴァイオリン第一、ヴァイオリン第二、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

独奏ピアノとオーケストラが緊密に絡み合い、多様な音色と響きを創出する豊かな編成となっています。

演奏時間

全三楽章を通しての演奏時間は、およそ27分程度です。

楽曲構成と特徴

作品は伝統的な三つの楽章で構成されています。

第1楽章：アレグロ・アニマート
自由なソナタ形式に基づいています。冒頭、独奏ピアノによって提示される変拍子を含む力強い第1主題と、フルートによって歌われる息の長い優美な第2主題が対照的です。楽章中には、フランツ・リストが好んだとされるコロラトゥーラ風の華麗なカデンツァが随所に挿入され、独奏ピアノの技巧を際立たせています。通常のソナタ形式と比較すると提示部が長く、再現部が展開部の中に組み込まれている点が特徴的です。

第2楽章：アダージョ・ミステリオーソ
神秘的な雰囲気を持ち、楽章全体にわたって特徴的なC音のオスティナート（反復される音型）が用いられています。作曲者自身はこの楽章について、「幼いころ見た夢の記憶」であると語っており、内省的で幻想的な世界が描かれています。

第3楽章：アレグロ - アンダンテ - ヴィヴァーチェ・モルト・カプリッチョーソ
自由なロンド形式が採用されています。目まぐるしく変化する楽想の中に、第1楽章の主題が回想される部分が現れ、作品全体の統一感を高めています。フィナーレはヴィヴァーチェ・モルト・カプリッチョーソと指定され、めまぐるしい展開と高度な技巧を要求する華やかな音楽で閉じられます。

この協奏曲全体を通じて、独奏ピアノのパートには非常に高度な演奏技巧が求められます。矢代自身、『作曲にあたっては「ピアニストは2本の手ではなく10本の指を持っているのだ」という先人の言葉を常に意識した』と語っており、その言葉の通り、両手の10本の指を最大限に活用するような難易度の高いパッセージが多用されています。

発表以来、この作品は日本国内においては比較的演奏機会が多く、中村紘子をはじめ、岡田博美など、多くのピアニストによって演奏されています。その技巧的な要求と音楽的な深みから、現代日本のピアノ協奏曲を語る上で欠かせない作品の一つとなっています。

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