ピアノ協奏曲第2番 (プロコフィエフ)

ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品16

セルゲイ・プロコフィエフによって1912年末から1913年4月にかけて生み出された、彼のピアノ協奏曲における2作目にあたる楽曲です。サンクトペテルブルク音楽院在学中に書かれたこの作品は、前年に初演され大きな反響を呼んだ第1番に続いて発表され、プロコフィエフの若き日の革新的な精神と圧倒的な才能を鮮烈に示しています。

作曲の経緯と初演

プロコフィエフは、自身のピアノ独奏で鮮烈なデビューを飾ったピアノ協奏曲第1番の成功に続き、更なる表現の可能性を追求しました。第2番は、その第1番の作曲とほぼ同時期、1912年末から翌年4月にかけて筆が進められました。

作品は1913年夏、パヴロフスクでの演奏会で初めて披露されました。この初演もプロコフィエフ自身がピアノを担当し、A.P.アスラーノフが指揮を執りましたが、その革新的な音楽は聴衆を大きく動揺させ、第1番の時以上に賛否両論の激しい議論を巻き起こしました。『サンクトペテルブルク新聞』には辛辣な批評が掲載される一方、音楽評論家のヴャチェスラフ・カラトゥイギンはこの若き作曲家を擁護し、「10年後には聴衆がその天才を称賛するだろう」と予言的な言葉を残しています。この予言は、その後のプロコフィエフの輝かしいキャリアを思えば、まさに現実のものとなりました。

また、この作品は作曲家にとってキャリア形成上の重要な転機ともなりました。1914年にロンドンでバレエ・リュスの主宰者セルゲイ・ディアギレフと会った際、プロコフィエフはこの協奏曲を演奏して見せ、ディアギレフはその独創性に深く感銘を受けました。これが契機となり、後にバレエ音楽『アラとロリー』（スキタイ組曲の元となる）や『道化師』といった、プロコフィエフの代表作となる作品がバレエ・リュスのために書かれることになります。

初演版の消失と改訂

残念ながら、この作品の初演時に用いられた版は、ロシア革命の混乱の中で失われてしまいました。そのため、プロコフィエフは1923年、ドイツのエッタル滞在中に、自身の記憶と断片的な資料を頼りに総譜を復元し、同時に改訂を加えました。この改訂版は、1924年8月5日にパリで、再びプロコフィエフ自身の独奏とセルゲイ・クーセヴィツキー指揮により初演されました。現在演奏されているのは、この改訂された楽譜に基づいています。改訂によって、初演版よりも幾分穏やかな表現になったと考えられています。

楽曲の特質

ピアノ協奏曲第2番は、前作で既に顕著だったモダニズムの傾向を更に推し進めた作品です。ピアノは終始にわたって圧倒的な存在感を放ち、時にオーケストラはピアノの強烈な主張を支える伴奏的な役割に徹しているかのように聞こえます。

構成面では、通常3楽章制が採られるピアノ協奏曲において、スケルツォと間奏曲という二つの中間楽章を挟んだ4楽章制を採用している点が特徴的です。内容的には、野生的で力強い表現と叙情的なロマンティシズム、さらにグロテスクなユーモアや複雑なリズム、超絶技巧が混然一体となり、極めて大胆で斬新なアイデアが詰め込まれた意欲作と言えます。

また、プロコフィエフが生涯に作曲した5つのピアノ協奏曲の中で、唯一短調で始まり短調で終結する作品であることも、この第2番を特徴づける点です。全曲を通して約30分の演奏時間を要します。

楽器編成

独奏ピアノに加え、以下の編成で演奏されます。

木管楽器: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2
金管楽器: ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ
打楽器: ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タンブリン
その他: 弦五部

楽曲構成

作品は以下の4つの楽章から構成されます。

第1楽章 Andantino

ト短調、ソナタ形式を基本としながらも自由な構成をとります。夜想曲を思わせる叙情的な第1主題と、対照的なリズミックな第2主題が提示されます。展開部は、ピアノ独奏による極めて長大な即興的カデンツァが中心となり、演奏者に高度な技術と表現力が要求されます。カデンツァの後、音楽は静けさを取り戻し、冒頭の主題がかすかに現れながら、そのまま楽章を閉じます。

第2楽章 Scherzo. Vivace

ニ短調、三部形式。息つく間もないほど急速なテンポで駆け抜ける、無窮動または激しいトッカータ風の楽章です。主部は、冒頭から勢いよく提示されるピアノの主題が全体を牽引します。ピアノは終始、オクターヴのユニゾンで奏され、その圧倒的な運動性は聴き手に強烈な印象を与えます。

第3楽章 Intermezzo. Allegro moderato

ト短調、三部形式。管弦楽による低音部の跳躍する特徴的な序奏で始まり、劇的な雰囲気を醸し出します。主部はこの序奏の要素を発展させ、濃密な表現が続きます。中間部では、ピアノによる華やかなグリッサンドの音型が加わり、これまでの楽想を装飾し繰り返します。管弦楽とピアノが複雑に絡み合い、独特の音響効果を生み出します。主部の音楽が戻ると、楽想は変化し、より重厚で力強い響きとなり、劇的な締めくくりを迎えます。

第4楽章 Finale. Allegro tempestoso

ト短調、変形されたロンド形式。嵐のように激しく、時にグロテスクな性格を持つ楽章です。大きく三つの部分に分けられ、奔放で刺激的な第1部では、ピアノが打楽器のように扱われます。対照的に、中間部では一転して民謡風の温かみのある旋律が中心となります。終結部に向かうにつれて、打楽器を含む全合奏が突如として情熱的で騒がしい音楽を繰り広げ、その後アレグロ・テンペストーソの楽想が戻って強烈に展開されます。短いコーダでは、ピアノと管弦楽が活発にかけ合いを行い、豪華な響きで唐突に終結します。

演奏

この作品は、プロコフィエフのピアノ協奏曲の中でも特に高い演奏技巧を要求される難曲として知られています。そのため、演奏される機会は第3番などと比べると少ないですが、その音楽的な魅力から多くのピアニストに挑戦されています。近年では、中国のピアニスト、ユンディ・リがこの作品を好んで演奏していることで知られています。

本作は、若きプロコフィエフの革新性とエネルギーが凝縮された、20世紀ピアノ協奏曲史における重要な作品の一つと言えるでしょう。

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参考文献：
『作曲家別名曲解説ライブラリー プロコフィエフ』（音楽之友社）
CD解説書『プロコフィエフ:ピアノ協奏曲全集』（アシュケナージ独奏、プレヴィン指揮）
* CD解説書『プロコフィエフ:ピアノ協奏曲全集』（トラーゼ独奏、ゲルギエフ指揮）

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