ピアノ協奏曲第3番 (大澤壽人)

ピアノ協奏曲第3番変イ長調「神風協奏曲」について

大澤壽人によって1938年に作曲されたピアノ協奏曲第3番変イ長調は、「神風協奏曲」という副題を持っています。この副題は、当時の朝日新聞社の航空機「神風号」が東京-ロンドン間の記録飛行に成功したことに由来しており、特攻隊とは無関係です。初演は同年6月24日、作曲者自身の指揮、宝塚交響楽団、独奏マキシム・シャピロによって大阪朝日会館で行われました。

初演と評価

当時の日本の楽壇はドイツ音楽が主流であり、大澤のフランス風の作風は受け入れられにくく、初演後も再演の機会に恵まれませんでした。ラジオ放送も行われたものの、作品の難易度の高さや時代の潮流との不一致から、長らく忘れられた存在となっていました。

再演の経緯と再評価

1999年、神戸新聞社が兵庫県出身の功績者を掘り起こす企画の中で、音楽評論家の片山杜秀氏とともに大澤壽人の楽譜を発見しました。その結果、2003年2月2日に東京紀尾井ホールで、オーケストラ・ニッポニカの設立演奏会にて、野平一郎のピアノ独奏、本名徹次の指揮により、65年ぶりに再演されました。

この再演を機に、作品の価値が見直されるようになり、独奏を担当した野平一郎は、「20世紀ヨーロッパの作曲界と日本の伝統の間で折衷を余儀なくされているものの、作品の論理性は高く、当時の日本の作曲界の水準をフランスに示すものだ」と評しています。その後、遺族による自費出版（2004年）や、全音楽譜出版社からの出版（2023年）も行われ、作品は広く知られるようになりました。

作品の構成と特徴

この協奏曲は、伝統的な3楽章構成をとっていますが、調性は自由に扱われています。

第1楽章 Allegro assai: 変イ長調を基調とするソナタ形式。冒頭、トロンボーンと弦楽器による「全曲のモットー」と呼ばれる3つの音が提示され、これが全曲の核となります。雲を突き抜ける飛行機を思わせる活発な動きと、華やかでありながら力強い旋律が展開されます。短いコーダでは、ピッコロのロングトーンが飛行機の飛び去る様子を表現します。

第2楽章 Andante cantabile: ト長調の3部形式。珍しいサクソフォーンのソロで始まり、クラシック音楽でありながらジャズの要素を取り入れた、ムード感あふれる楽章です。ブルース音階と五音音階の類似性を利用することで、東洋的な懐かしさも感じさせます。

第3楽章 Allegro moderato; Allegro vivace: 序奏とロンド、コーダからなる楽章。スケルツォのように軽快な主部、キャバレー風の音楽が挿入されるなど、変化に富んだ展開を見せます。ピアノのカデンツァを経て主題が回帰し、コーダでは弦楽器が風のうなりやエンジンの音を模倣し、劇的な終結を迎えます。この楽章では、ピアノの高度な技巧とモダンな曲想が際立ちます。

楽器編成

ソロ・ピアノ、フルート、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2（Esクラリネット持ち替え）、アルト・サックス、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン2、ティンパニ、シンバル、小太鼓、タムタム、タンバリン、チャイニーズ・ドラム、弦5部という大規模な編成です。

録音

この作品は、以下の演奏によって録音されています。

ドミトリ・ヤブロンスキー指揮、ロシア・フィルハーモニー管弦楽団（Naxos 8.557416J、交響曲第3番とのカップリング）
本名徹次指揮、オーケストラ・ニッポニカ、野平一郎ピアノ独奏（「芥川也寸志メモリアル　オーケストラ・ニッポニカ第1集」 Mittenwald MTWD99011）
山田和樹指揮、日本フィルハーモニー交響楽団（日本コロムビア。コントラバス協奏曲、交響曲第1番とのカップリング）

もう一度検索