ピノ (ゲームキャラクター)

ピノ

「ピノ（PINO）」は、かつてナムコとして知られ、現在はバンダイナムコエンターテインメント（BNEI）となっているゲーム会社が生み出した、ゲームの世界を股にかける架空のキャラクターです。彼は主に二つの顔を持っています。一つは1986年にリリースされたアクションゲーム『トイポップ』でプレイヤーが操作する主人公として、もう一つは野球ゲーム『ファミスタ』シリーズに登場する、並外れた俊足を持つプロ野球選手としてです。特に後者の野球選手としての姿は多くのゲームファンに強い印象を残しています。『プロ野球 ファミスタ リターンズ』では、声優の落合福嗣氏が彼の声を務めました。

『トイポップ』の主人公として

ピノの最初の舞台は、1986年に登場したアーケードゲーム『トイポップ』でした。このゲームは画面固定式のアクションゲームで、邪悪な魔女によって捕らえられてしまった仲間たちを救い出すため、ピノが彼のパートナーであるアチャと共に冒険を繰り広げる物語です。アチャの名前は「赤ずきん」に由来すると言われています。ゲームのグラフィックは、メルヘンチックで愛らしいタッチで描かれていましたが、その見た目とは裏腹に、ゲームの難易度は非常に高いことで知られていました。

家庭用ゲーム機への移植は、アーケード版の登場から9年後の1995年、PlayStation向けソフト『ナムコミュージアム』に収録されたのが最初であり、唯一の例となりました。このような移植の少なさから、同時期に登場した他のナムコ作品に比べると、ピノや『トイポップ』自体の知名度はやや控えめかもしれません。しかし、パソコン向けにはX1やWindows版が存在し、2007年には携帯電話アプリとしてもリリースされています。

『トイポップ』において、ピノは1プレイヤーが操作する主人公です。彼の名前は童話の「ピノキオ」から取られたとされています。2プレイヤーキャラクターであるアチャと比較すると、ピノは少し足が速いという特徴があります。ゲームプレイ中に出現するアイテムの中に「ブーツ」、通称「ジェット・ブーツ」と呼ばれるものがあり、これを取得すると一定時間、操作が困難になるほどの驚異的なスピードで移動できます。後に『ファミスタ』シリーズで「ピノ＝俊足」というイメージが確立されるのは、この『トイポップ』でのジェット・ブーツによる超加速体験が影響していると考えられています。

架空の野球選手として

『ファミスタ』シリーズにおけるピノは、野球選手として、打ってから一塁に到達するまでわずか2.5秒という、現実のプロ野球選手の基準を遥かに凌駕する驚異的な走力を持つことで特に知られています。初代『プロ野球ファミリースタジアム』では、当初は代打選手としてチームに加わっていましたが、翌年の『ファミスタ'87』からは不動の一番打者として定着しました。家庭用ゲーム機を中心に、ナムコスターズが登場する多くの作品で彼の姿を見ることができます。ただし、MSX2版の初代『プロ野球ファミリースタジアム』には登場していません。この理由について、当時のゲーム雑誌『MSXマガジン』では「寄る年波には勝てない」とユーモラスに記されていました。

ゲームの初期シリーズでは、選手名は主に平仮名で表記されており、「ぴの」と表示されていました。しかし、『スーパーファミスタ2』以降の作品では、カタカナの「ピノ」という表記が一般的になりました。

投げる・打つ動作については、基本的には左投げ左打ちとして設定されていますが、『SUPERワールドスタジアムシリーズ』では右投げ右打ちになっている作品もあります。『SUPERワールドスタジアムシリーズ』では、登場時期によって球団名が東京ナムコスターズからナムコオールスターズへと変更されています。

背番号は、初期には「8」が割り当てられていましたが、『SUPERワールドスタジアムシリーズ』や『プロ野球 ファミスタオンライン』以降の作品では「2」が使われるようになりました。

『ファミスタ64』（1997年）では、詳細なプロフィールが設定され、誕生日が6月12日とされました。同作のガイドブックによると、生年も1974年と明記されており、これはあの松井秀喜選手と同じ生年月日というユニークな設定です。また、出身地は沖縄県となっています。

2011年に発売された『プロ野球 ファミスタ2011』では、ナムコスターズの顔ぶれが1990年代以降のキャラクター中心となったため、長年チームを支えた主砲のパックマンらと共に、1980年代までのキャラクターで構成される新設チーム「ナムコレジェンズ」に移籍しました。一方、『プロ野球 ファミスタオンラインシリーズ』では引き続きナムコスターズの一員としてプレイ可能です。

さらに、『プロ野球 ファミスタ リターンズ』では、ピノが結婚しており、彼に劣らぬ俊足の息子「ピノジュニア」がいることが明かされました。彼の伴侶は、『トイポップ』のパートナーであったアチャであることが示唆されています。2015年の『プロ野球 ファミスタ リターンズ』の発売に合わせて、通常のピノとは能力が異なる「太ったピノ」も配信されました。こちらは走力は低いものの、パワーが高いという特徴を持っていました。

野球選手としてのプレイスタイルと能力

ピノの最大の武器である俊足は、ゲームプレイにおいて非常に強力です。作品によっては、フライを打たない限り、内野ゴロでさえ高い確率で安全に出塁できる能力を持ちます。また、盗塁成功率も非常に高く、特に一塁ランナーの場合、キャッチャーが二塁へ送球する間に三塁まで到達できるほどのスピードを発揮することもあり、そこからスクイズで得点を狙うといった戦術も可能になります。

ゲーム中に表示される打撃成績は、多くの作品で打率2割5分前後、本塁打5本以下という設定ですが、一部の作品では2割7分以上の打率を記録している場合もあります。守備能力については、作品によってばらつきが見られた時期もありますが、シリーズを通して概ね平均レベルか、それ以上の安定した守備力を維持しています。

ただし、シリーズ全体を通じて常に「最速」というわけではありません。例えば、漫画『巨人の星』に登場する速水譲次をモデルにしたとされる、アニメスターズの「はやみ」といった他の俊足キャラクターが、ゲーム内での最速の座を占めていた時期もありました。また、初期やPlayStation版以降の作品では、内野ゴロで必ず出塁できるほどの設定になっていないこともあります。

ピノに人並み外れた足の速さが設定された背景について、『トイポップ』と初代『ファミスタ』の両方の開発に携わった岸本好弘氏は、当時のインタビューで「目立たせようと思った」と語っており、彼の俊足はキャラクターを印象づけるための意図的な設定であったことがわかります。

現実世界への影響とエピソード

ピノの知名度と俊足のイメージは、ゲームの世界を超えて現実世界にも影響を与えています。例えば、かつてオリックス・ブルーウェーブに所属していた谷佳知選手は、テレビ番組の企画で「20世紀ベストナイン」を選ぶ際、イチロー選手を差し置いて外野手部門にピノを選んだというエピソードがあります。また、千葉ロッテマリーンズに所属していた早川大輔選手は、幼い頃からの理想の選手としてピノの名前を挙げ、「将来的には登録名を『ぴの早川』にしたい」と新聞紙上で語ったこともありました。

現実のプロ野球選手の中にも、その俊足ぶりから「ピノみたいだ」と形容されることがあります。具体的な例としては以下のようなものがあります。

北海道日本ハムファイターズの村田和哉選手が50mを5秒7で走る俊足の持ち主であることから、OBの岩本勉氏が彼を「リアルピノ」と評しました。
2008年には、翌年のワールド・ベースボール・クラシック日本代表候補だった片岡易之選手の走塁を見たイチロー選手が、「ファミスタの『ピノ』みたいでしょ」とそのスピードを称えました。
東京ヤクルトスワローズの公式サイトには、内野手の三輪正義選手がチームメイトから「ピノ」という愛称で呼ばれていることが掲載されていました。
阪神タイガースの近本光司選手も50m5秒8の俊足が武器であり、大学時代に対戦経験のある読売ジャイアンツの畠世周投手が、当時から「周りからピノと呼ばれていた」と語っています。

さらに、漫画の世界にもピノの影響は見られます。『週刊少年ジャンプ』で連載されていた野球漫画『Mr.FULLSWING』に登場するキャラクター、兎丸比乃（とまる ぴの）は、ピノが名前の由来となっており、モデルと同様に非常に足が速いという特徴を持っています。

このように、ピノはゲームキャラクターとしてだけでなく、スポーツ界や創作物においてもその存在感を示しており、バンダイナムコエンターテインメントが生んだ架空のレジェンドとして、今なお多くの人々に記憶され、愛されています。

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