ピープル・エキスプレス
ピープル・エキスプレス航空（初代）：格安航空の先駆け
ピープル・エキスプレス航空（PEOPLExpress Airlines）、通称ピープルエキスプレスは、1981年から1987年まで存在したアメリカの格安航空会社です。創業者ドナルド・バーらは、イギリスの格安航空会社レイカー航空の成功に触発され、低運賃で航空輸送を提供することを目指しました。1987年にコンチネンタル航空に買収され、その短い歴史に幕を閉じました。
誕生と成長
1981年、ピープルエキスプレスは、ルフトハンザ航空が使用していたボーイング737型機を中古で購入し、運航を開始しました。ハブ空港には、当時放置されていたニューアーク・リバティー国際空港のターミナルを選定。ニューヨーク近郊の主要空港を拠点に、格安運賃でバッファロー、コロンバス、ノーフォークなどの都市を結びました。開業直後には、近隣の鉄道事故でターミナルが閉鎖されるというトラブルにも見舞われましたが、格安運賃が市場に受け入れられ、急速に成長。1981年末にはフロリダまで路線網を拡大しました。
国際線への進出
1983年5月には、ブラニフ航空からリースしたボーイング747型機を導入し、初の国際線となるニューアーク - ロンドン・ガトウィック空港線を開設しました。同社は、フランクフルトやパリへの就航も申請していましたが、格安運賃での運航が認められず、ロンドン線のみとなりました。この路線では、普通席片道149ドルという破格の運賃を設定し、予約が殺到。数ヶ月間チケットが即日完売するほどの人気を博しました。その後、ブリュッセルやモントリオールにも国際線を拡大。座席は原則として普通席のみでしたが、国際線には「プレミアムクラス」と呼ばれる上級席も設けられました。
買収による拡大
ピープルエキスプレスは、1985年にデンバーを拠点とするフロンティア航空を買収しました。フロンティア航空は労働組合が強いことで知られていましたが、労働組合のないピープルエキスプレスが同社を買収したことは、当時大きな話題となりました。この買収によって、ピープルエキスプレスはアメリカで5位の規模を誇る航空会社へと成長。さらに、中西部を運航するブリット航空や、ニューイングランドとフロリダ州を運航するプロビンスタウン・ボストン航空も傘下に収めました。
大手航空会社との競争激化
ピープルエキスプレスの急成長は、既存の大手航空会社にとって脅威となりました。ユナイテッド航空、デルタ航空、ブラニフ航空などは、ピープルエキスプレスと競合する路線で採算を度外視した格安運賃を導入し、顧客を奪い始めました。ピープルエキスプレスが路線から撤退すると、大手航空会社は運賃を以前の水準に戻すという手法を取り、乗客から強い反発を受けました。これにより、航空会社が一度設定した運賃は一定期間変更できないという制度が導入されるきっかけとなりました。大手航空会社との競争が激化すると、ピープルエキスプレスは大手航空会社が運航していない路線を運航するようになり、ターゲットを「車」へとシフトしました。「ドライブよりも安い航空運賃」を掲げ、新たな顧客層を開拓しようと試みました。
経営悪化と消滅
しかし、旧フロンティア航空の従業員によるストライキや、機内サービスに対する顧客の不満が噴出。機内サービスの有料化やマイレージプログラムの導入を余儀なくされ、特徴であった一律運賃も変更せざるを得なくなりました。これらの経営戦略の失敗や、大手航空会社の低価格攻勢により、ピープルエキスプレスの経営状況は悪化。1986年には、会社の一部または全部を売却してくれる企業を探し始めました。最終的に、ピープルエキスプレスはテキサスエアー社に売却されましたが、テキサスエアーはフロンティア航空のみを購入。結果、1987年2月1日、ピープルエキスプレスはコンチネンタル航空に買収され、その歴史に幕を閉じました。コンチネンタル航空は、この買収によってニューアーク空港の発着枠を獲得。現在もユナイテッド航空のハブ空港として重要な役割を果たしています。
格安運賃とサービス削減
ピープルエキスプレスは、大手航空会社に比べて格安な運賃体系を採用していました。事前に購入しなくても、いつ買っても同一料金というシンプルなシステムで、機内の乗客はみな同額を支払っていました。ただし、多客期には一部運賃の値上げも実施していました。また、インターネットが普及する以前から、予約客や当日の飛び込み客にも搭乗券を渡し、機内で運賃を徴収するという大胆な方法を採用していました。
サービス面では、コスト削減のため、無料の機内サービスは水のみ。ソフトドリンクやスナックは有料で販売されました。空港での荷物取扱コストを削減するため、乗客に機内への手荷物持ち込みを推奨。預け荷物は1個まで無料でしたが、2個目からは有料としました。機内持ち込みを推奨したため、手荷物棚は大型に改造されました。
使用機材
ピープルエキスプレスの保有機材は、ほぼすべて中古機であり、コンチネンタル航空に引き継がれました。
ピープル・エキスプレス航空（2代目）：再挑戦と挫折
2012年、ピープルエキスプレスの元従業員であるマイケル・モリシが、2代目のピープル・エキスプレスを設立。バージニア州ニューポートニューズ空港をハブ空港として、アメリカ東海岸の小規模都市を結ぶ路線を展開しようとしました。機材は中古のボーイング737型機を使用し、運賃は大手航空会社の約6割程度に抑える予定でしたが、2014年に運航を開始したものの、数ヶ月後に運航停止。2015年には空港から撤退しました。その後、2代目法人代表のマイケル・モリシは、詐欺罪と連邦税の虚偽申告で有罪判決を受けました。
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