ファエトン (交響詩)

ファエトン 作品39, R. 170

カミーユ・サン＝サーンス（Camille Saint-Saëns）が1873年に作曲した管弦楽のための交響詩です。彼のこのジャンルにおける2作目の作品にあたり、ギリシア神話に登場するヘーリオスとクリュメネーの子、ファエトンの物語を音楽で表現しています。この作品は作曲された年の12月7日、国民音楽協会における演奏会でエドゥアール・コロンヌの指揮によって初演されました。サン＝サーンスの交響詩としては、前作『オンファールの糸車』（作品31）に比べると演奏される機会は少ない傾向にありますが、その音楽的な構成は非常に重厚な響きを持っています。

楽器編成

この楽曲は、以下の大規模なオーケストラによって演奏されます。

ピッコロ
フルート 2（2本ともピッコロに持ち替えあり）
オーボエ 2
クラリネット 2
ファゴット 2
コントラファゴット（任意）
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 3
チューバ
ティンパニ 4台（奏者3名が必要）
大太鼓
タムタム
シンバル
ハープ 2
弦五部

コントラファゴットは任意ですが、その他の楽器は指定通りに編成されます。ティンパニが4台使用され、それを3人の奏者が受け持つというユニークな指定があります。

楽曲構成

楽曲は約9分の演奏時間で、物語の進行に合わせて多様な音楽的展開を見せます。

導入部は「マエストーソ」（堂々と）という速度指示で始まります。金管楽器による荘厳な旋律に続き、弦楽器と木管楽器が上昇する音階を提示し、全楽器による強力な響き（トゥッティ）で締めくくられます。

主部はハ長調、4分の4拍子となり、「アレグロ・アニマート」（速く、活気をもって）という非常に急速なテンポが指定されています。ここでは、弦楽器群が第一主題を奏でます。これは、ファエトンが父ヘーリオスから借りた太陽の馬車が地上を疾走する様子を描写していると考えられています。この主題は弦楽器によって3度繰り返された後、木管楽器へと受け継がれます。やがて、トロンボーンとトランペットによって第二主題が提示されます。これは天空を支配する神ゼウスの声を表していると解釈されており、ファエトンの暴走を止めようとする警告のようです。しかし、このゼウスの声は、ファエトンの駆る馬車の主題によって次第に遮られていきます。

楽曲の中間部では、第三主題が現れます。この主題は、ファエトンの破滅を見守るゼウスの悲しみを音楽で表現しているとされます。この主題は最初は特定の楽器群によって提示されますが、後にクラリネットなども加わって、より情感豊かに歌われます。やがて、弦楽器が第二主題を変形させて再び現れますが、太陽の戦車はゼウスの警告に耳を貸さず、危険な暴走を続けます。

その後、主部の第一主題が再現され、音楽の緊張感は再び高まっていきます。ファエトンの暴走はついにゼウスの逆鱗に触れ、ゼウスは雷をもって彼を打ち据えます。音楽は雷鳴のような響きと突然の静寂でファエトンの絶命を描写します。

終結部であるコーダは、速度を緩めて進行します。ここでは、導入部や中間部で示された第三主題が変形された形で、ホルンやチェロによって奏でられます。これはファエトンを失ったゼウスの嘆きを暗示しているかのようです。最後にフルートとクラリネットがかつてのゼウスの警告であった第二主題を穏やかに提示し、弦楽器のピッツィカート（弦を指で弾く奏法）によって、静かに、そして物悲しく全曲を閉じます。

演奏時間

この交響詩の標準的な演奏時間は約9分程度です。

参考文献

• - 最新名曲解説全集5 管弦楽曲II （音楽之友社）

関連情報

• - 交響詩『ファエトン』ハ長調 作品39, R. 170の楽譜は国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）にて公開されています。

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(注) 上記楽曲分析は一般的な解釈に基づいています。

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