ファールス (イラン)

ファールス（Fārs）

ファールスは、イラン南部に位置する歴史的な地域名で、現在のファールス州を中心とした地域を指します。この地は、古代ペルシアの中心地として、また、様々な王朝の興亡の舞台として、重要な役割を果たしてきました。

名称の由来

ファールスの名称は、古代ペルシア語で「騎馬者」を意味する「パールス(Pârs)」に由来します。古代には「パールサ(Pârsâ)」と呼ばれていました。ギリシャ語では「ペルシス(Πέρσις Persis)」と呼ばれ、「ペルシア」の語源ともなりました。サーサーン朝時代には「パールス(پارس Pārs)」となり、古代中国では「波斯」と音訳され、ペルシアの訳語として用いられました。アラビア語ではpの発音がfに変化したため、現在では「ファールス(فارس Fārs)」と発音されています。

歴史

アカイメネス朝

紀元前1000年頃、イラン高原に進出したイラン系の民族（後のペルシア人）は、紀元前7世紀までに高原南西部のパールサ地方に定着したと考えられています。この地は「良き人と良き馬に恵まれたパールサ」と呼ばれ、ペルシア人はその軍事力を背景に紀元前550年、アカイメネス朝をこの地で建国しました。

サーサーン朝

3世紀初め、パールサの支配権を得たと推定されるパーパクに代わり、224年に即位したアルダシール1世は、イスファハーン北方でパルティア最後の王を破り、230年までにはメソポタミア全域を支配しました。彼の後を継いだシャープール1世の時代にサーサーン朝が創始されました。

ゾロアスター教

サーサーン朝の国教とされたゾロアスター教は、紀元前1千年紀前半に中央アジア西部で成立し、アカイメネス朝の時代にイラン高原に浸透しました。ペルシアの中心地であったパールサ地方では、長らくこの宗教が信仰されてきました。

イスラーム王朝

サッファール朝の君主アムル・イブン・アル＝ライスは、カリフからスィースターン、ホラーサーン、ファールスの支配を公認されました。アッバース朝の時代には10％であったイランのムスリム人口は、サッファール朝の時代には80％を超え、ブワイフ朝の時代には90％以上となりました。

ブワイフ朝は、ズィヤール朝に仕えていた三兄弟が台頭し、932年にはイラン南部のファールス地方に進出して支配を確立しました。ブワイフ朝は、ファールス、ジバール、イラクの3政権と、その他の群小政権からなる連合体であり、長男の一族がファールス地方を支配しました。

1148年、オグズ系のサルグル氏族出身のスンクルは、前代のファールスの実力者からアタベグの称号を引き継ぎ、ファールス地方においてサルグル朝を建国しました。

モンゴル王朝

モンゴルの侵入後、イランにはイルハン朝が建国され、それまでファールス地方を支配していたサルグル朝は1285年にイルハン朝に組み込まれました。オルジェイトゥ・ハンの時代には、イルハン朝の王領を管理するシャラフ・アッディーン・マフムードシャーがファールスを本拠に独立しました（インジュー朝）。

インジュー朝は1336年に滅亡しましたが、その支配下ではペルシア文学が大きく発展し、サアディーやハーフィズといった著名な詩人がシーラーズに居住し、後世に語り継がれる作品を残しました。また、11世紀のイランの大詩人フェルドウスィー作の大叙事詩『シャー・ナーメ』のミニアチュール入りの写本がシーラーズで製作され、シーラーズ派として区別される独特の様式が確立されました。

参考資料

永田雄三編『世界各国史9　西アジア史Ⅱ　イラン・トルコ』山川出版社、2002年

関連項目

ケルマーン
スィースターン
ホラーサーン
* ペルシア

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