フィルモン

フィルモン：幻の蓄音機システムとその記録媒体

フィルモンは、1930年代に日本で開発された独自の蓄音機システムであり、その専用記録媒体である「フィルモン音帯」とともに、その短くも革新的な歴史を刻みました。本稿では、フィルモンの開発から製造、そして現代における保存状況に至るまで、その詳細を掘り下げて解説します。

開発の背景と沿革

フィルモンの開発は、大阪の竜華工業の経営者であった小西正三と、ニットーレコードで長時間レコードの開発に携わった細井勇によって、1931年から1932年にかけて共同で進められました。1937年には、製造・販売を目的とした新会社「日本フィルモン」が、東京府北多摩郡狛江村（現在の東京都狛江市）に設立されました。

商品名の「フィルモン」は、記録媒体がフィルム状であることに由来し、「フィルム・フォン（Film phon）」から「フィルム音」、そして「フィルモン」へと変化したとされています。しかし、開発者の小西と細井は、事業化の段階で会社を去りました。また、第二次世界大戦の影響による物資不足のため、1940年に日本フィルモンは解散を余儀なくされ、工場兼録音スタジオは軍需工場へと転用されました。生産停止までに一定の売れ行きがあったものの、本格的な普及には至らず、その歴史は幕を閉じました。

フィルモンおよびフィルモン音帯の製造期間は、会社設立翌年の1938年から解散した1940年までのわずか2年間でした。この短い期間に製造されたフィルモン音帯は、全120種、約50万本と推定されています。

構造と記録方式

フィルモン音帯は、幅35ミリメートル、長さ約13メートル、厚さ約0.23ミリメートルのセルロイド製フィルムで、エンドレス構造（ループ状）をしている点が特徴です。専用の再生機「フィルモン」のドラムに巻き付け、反時計回りに回転させます。媒体に刻まれた音溝に金属針を当てることで、その振動を音声信号に変換するという、当時のレコードと同様の方式を採用しています。磁気記録方式が主流となる以前の技術でした。

音溝の規格はレコードに準じており、兼用再生機ではトーンアームが共通化されている機種も存在しました。音溝は幅あたり約100本までの記録が可能で、最長記録時間は34分から36分、記録可能な周波数帯域は7000から8000ヘルツでした。これは、当時のSP[[レコード]]（10インチ・78回転）と比較して、連続再生時間が約10倍近く長く、かつ高音質であったことを意味します。

コンテンツと流通

1939年に発行されたカタログ『フヰルモン音帯目録』には、音楽の他、長唄、清元、常磐津、浪曲、講談、講演など、当時のSP[[レコード]]では時間的な制約があったコンテンツが収録されていました。これにより、長時間にわたる演芸や講演を途切れることなく楽しむことが可能になりました。

保存状況

現存するフィルモン蓄音機は非常に少なく、希少価値が高いものとなっています。主な所蔵先としては、以下の施設が挙げられます。

早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 (FE-10)
金沢蓄音器館 (FA-100、2015年重要科学技術史資料第一種指定)
福井県立こども歴史文化館（オーディオテクニカのテクニカギャラリーからの寄贈）
ヴォイスミュージアム（富山県小矢部市）
日本ラジオ博物館（長野県松本市）(FA-100改)
口和郷土資料館（広島県庄原市）（長崎放送からの貸与。オリジナル再生機も所蔵）

また、個人所蔵も数台存在するとされています。

フィルモン音帯については、エンドレス構造のため保管が非常に難しく、変形して再生不能になっている例が多く見られます。主な所蔵先は以下の通りです。

国立国会図書館
東京文化財研究所
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
神奈川県立歴史博物館
大阪芸術大学博物館
口和郷土資料館

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