フェーローニア

フェローニア：豊穣と自由の女神

フェローニア（Feronia）は、古代ローマで広く信仰されていた女神です。豊穣と肥沃をもたらす力を持つと信じられ、特に平民（プレーブス）や解放奴隷たちから深い崇敬を集めていました。

フェローニア祭とフォルトゥーナ・プリミゲニア

フェローニアを祀る祭りは「Feroniae」と呼ばれ、毎年11月15日に行われていました。この祭りの期間は、平民のための競技大会「Ludi Plebeii」も開催され、ローマ社会全体にとって重要なイベントでした。興味深いことに、Feroniaeではフェローニアと共に、フォルトゥーナ・プリミゲニア（豊穣の女神）も祀られており、両女神はプラエネステ（現在のプラティ）の女神と関連づけられていたとされています。

起源とサビーニー人との関連

フェローニア信仰の起源は、サビーニー人に求められることが多いです。ウァッローはフェローニアをサビーニー人の女神と分類しており、実際にイタリア中央部で発見された多くの碑文が、フェローニア信仰の存在を示しています。サビーニー人の金貸し業者は、財産の保管場所の上などにフェローニアを祀り、その加護を願っていたと考えられています。ローマにおけるフェローニア信仰は、紀元前3世紀初頭、マニウス・クリウス・デンタトゥスによるサビーニー人征服以降に本格化したとされています。

フェローニアが単一の女神であったのか、それとも複数の機能を併せ持った存在であったのかは、現在のところ不明です。収穫の女神と解釈する説もあり、収穫祭において翌年の豊作を祈る儀式が行われていた可能性も示唆されています。

ウェルギリウスとフェローニア

ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』には、エトルーリアのフェローニアの森から来た軍勢が、トゥルヌスを助けてアイネイアースと戦ったという記述が登場します。また、アルカディアの王エウアンドロスが、若き日に三頭三体の怪物であるフェローニアの息子エリュルスを殺したという物語も記されています。エリュルスはウェルギリウスによってプラエネステの王とされていますが、他の文献には登場しません。これらの記述は、フェローニア信仰の広がりと、その神話が如何に人々の想像力を掻き立てていたかを示唆するものです。

フェローニア信仰の中心地

フェローニア信仰の中心地として知られるのが、ソーラクテ山麓にあった神殿と、Lucus Feroniae（フォーローニアの森、現在のフィアーノ・ロマーノ）です。フォーローニアの森では、毎年フェローニア祭が開催され、見本市のような賑わいを見せていたとされています。

もう一つの重要な場所は、ラティウム南部のテッラチーナにあったアンクスル（Anxur）です。セルウィウスによれば、この地には少年ユーピテルと処女ユーノーが祀られていましたが、セルウィウスは処女ユーノーをフェローニアと同一視しています。解放された奴隷たちは、この神殿を訪れ、「pileus」（リベリア帽）と呼ばれる自由の象徴である帽子を授けられたと言われています。

カンプス・マルティウスにあったフェローニア神殿（現在のトッレ・アルジェンティーナ広場）は、クリウス・デンタトゥスがサビーニー人に勝利したことを記念して建てられたとされています。彼はこの神殿の近くに噴水を造るなど、ローマ都市開発にも貢献しました。アクイレイアやテッラチーナのフェローニア祭祀場周辺にも泉があり、祭礼に利用されていた可能性が高いです。

解放奴隷とリーベルタース

ウァッローはフェローニアを、自由を人格化した女神リーベルタースと同一視しました。セルウィウスはフェローニアを解放奴隷の守護女神（dea libertorum）と捉えており、テッラチーナのフェローニア神殿の石碑には「ふさわしい奴隷をここに座らせよ。立ち上がったとき彼は自由だ」という銘文が残されています。リウィウスによれば、紀元前217年には、女性の解放奴隷たちが共同でお金を貯め、フェローニアに捧げたという記録もあります。

近世におけるフェローニア信仰

19世紀のチャールズ・ゴッドフリー・レランドは、トスカーナ地方で「魔女」フェロニアに関する伝統行事が生き残っていることを発見しました。これは、フェローニア信仰が古代ローマ時代をはるかに超えて、人々の意識の中に生き続けていたことを示唆しています。

フェローニア信仰は、古代ローマ社会における宗教観や、解放奴隷の社会的地位を考える上で、重要な手がかりを与えてくれる貴重な存在と言えるでしょう。

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