フリードリヒ・ズーピヒ

フリードリヒ・ズーピヒ（生没年不詳）は、18世紀前半に活動したドイツのバロックオルガン奏者、音楽理論家、作曲家です。彼の生涯については、まだ不明な点が多く、わずかな資料からその業績を辿ることができます。

作品

ズーピヒの作品として知られているのは、1722年にドレスデンで作成された2つの写本のみです。

1. 『音楽の算法（Calculus musicus）』

この写本は、音律と調律法に関する論文であり、1オクターヴあたり19音からなる純正律と、1オクターヴあたり31音からなる平均律（31平均律）について論じています。31平均律は、ルネサンス以降、イタリアのニコラ・ヴィチェンティーノやオランダのクリスティアン・ホイヘンスらが言及しており、ズーピヒの論文は、これらの理論のドイツにおける受容を示すものと言えるでしょう。

興味深いことに、『音楽の算法』の表紙には、J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の自筆譜表紙とよく似た渦巻装飾が記されています。この類似性から、ズーピヒとバッハが互いの理論を参照したか、あるいは共通の祖型を参照した可能性が指摘されています。

バッハの平均律クラヴィーア曲集は、平均律ではない何らかの音律に基づいて作曲されたという説があり、数学者のアンドレアス・シュパルシューは、バッハが曲集の表紙に渦巻装飾を通じて音律と調律法に対する指示を出していたと主張しています。この説に関連して、ズーピヒの渦巻装飾にも注目が集まっており、ジョン・チャールズ・フランシスの研究では、ズーピヒの表紙にはさらなる音律が図式で示されている可能性も指摘されています。

2. 『音楽の迷宮（Labyrinthus musicus）』

この写本は、短い序文とファンタジアという題が付いた音楽作品から構成されています。24の調すべてを使用し、1オクターブあたり31の音程を持つ、すべての調で純正な長三度を可能にするオルガンまたはチェンバロ（実質的に31平均律）を対象としています。

ヘンデルの友人であり、音楽理論家・オペラ歌手・外交官であったヨハン・マッテゾンは、ドイツ最初の音楽批評誌『音楽批評（Critica musica，1722）』で『音楽の迷宮』について言及し、ズーピヒをドレスデン郊外のオルガン奏者として紹介しました。このことから、バッハはズーピヒが24の調で作曲したこと、それを可能にする音律が存在することを知ったと考えられます。

写本の来歴と現代における評価

2つの写本は、1863年時点で、定期刊行物オイテルペでこの作品について言及したケーテンのルイ・キンドシャーが所有していました。写本にはドレスデン市政府への献呈が記されていますが、実際に提出されたかどうかは不明です。

その後、ルドルフ・ラッシュが編集した『調律と音律に関するライブラリー』第3巻に収録され、1990年にディアパソン社から出版され、広く知られるようになりました。『音楽の迷宮』の楽譜は、12平均律用の記譜ではありますが、エディション・バロック社からも出版されており、演奏時間1時間ほどの長大な作品として演奏されています。

ズーピヒの研究はまだ始まったばかりですが、彼の音楽理論と作品は、バッハをはじめとする同時代の音楽家たちに影響を与えた可能性があり、今後の研究によって、その全貌が明らかになることが期待されます。

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