フルベッキ群像写真

フルベッキ群像写真とは

フルベッキ群像写真とは、明治初期にオランダ改革派教会から派遣された宣教師グイド・フルベッキと、その子供、そして佐賀藩の藩校「致遠館」の学生・教師たちが写った集合写真の俗称です。この写真は、明治元年（1868年）10月から11月頃に撮影されたと推定されており、「フルベッキ写真」や「フルベッキと塾生たち」とも呼ばれています。

写真の経緯

この写真は、古くから存在が知られており、明治28年（1895年）には雑誌『太陽』に佐賀の学生たちの集合写真として紹介されました。当初、写真に写る人物についての詳細な言及はありませんでしたが、後に日本学の研究者ウィリアム・グリフィスが、この写真に「後に政府で影響力を持った人々」や「皇国の首相となった人物」が写っていると指摘しました。具体的には、大隈重信や岩倉具定、岩倉具経らの名前が挙げられています。また、明治40年（1907年）には『開国五十年史』にも掲載され、その存在が広く知られるようになりました。

写真の撮影時期と場所

写真の撮影は、長崎で活動していた写真師の上野彦馬によって行われました。撮影場所は、上野彦馬が経営する上野撮影局です。フルベッキ父子と致遠館の学生・教師合わせて46名が写っています。岩倉具視の次男・三男である岩倉具定・具経兄弟がフルベッキ父子の左右に写っていることから、撮影時期は慶応年間ではないと判断されています。高橋信一は、岩倉兄弟が致遠館に滞在していた時期から、明治元年（1868年）の10月28日から11月19日の間に撮影されたと推測しています。一方、上野彦馬の一族である上野一郎は、明治2年（1869年）の撮影であると推定しています。上野撮影局は、慶応3年末から慶応4年にかけて大規模な改造が行われており、写真に写る石畳の存在から、改造後のスタジオで撮影されたと考えられています。

2010年には、この写真の撮影時期を裏付ける証拠となる写真が発見されました。明治元年10月8日に、フルベッキと佐賀藩士の伊東次兵衛、致遠館教師5名が一緒に撮影されたガラス湿板写真です。この写真に写る教師たちは、「フルベッキ群像写真」にもほぼ同じ姿で写っています。これらの証拠から、撮影時期は明治元年と特定されています。

写真に写る人々

「フルベッキ群像写真」には、多くの致遠館の学生たちの姿が記録されています。フルベッキ親子の両隣にいる岩倉兄弟をはじめ、折田彦市、相良知安、石丸安世、山中一郎、香月経五郎、中島永元、丹羽龍之助、石橋重朝、江副廉造、大庭櫂之助、中野健明など、後に政治家や官僚として活躍した人物も含まれています。

「維新の志士達の集合写真」説

昭和49年（1974年）、肖像画家の島田隆資は、「この写真には坂本龍馬や西郷隆盛、高杉晋作など、明治維新の志士たちが写っている」という説を発表しました。島田は、この説に基づき、写真の撮影時期を慶応元年（1865年）と推定しました。しかし、この説は学会では受け入れられず、一時は佐賀市の大隈記念館で展示されたものの、現在は否定されています。

この説は、その後もたびたび話題になり、自由民主党の二階堂進副総裁が国会に持ち込んだり、陶板として販売されたりしました。しかし、これらの動きは全て、写真に写る人物が維新の志士ではないという事実によって否定されています。

近年では、AIによる画像分析を用いた検証も行われました。この検証では、写真に写る人物と「維新の偉人」の肖像写真との類似度を比較したところ、大隈重信との類似度が最も高かったものの、実際には副島要作と同一人物であると判定されました。また、岩倉兄弟や佐賀藩士との類似度は非常に高く、写真に写っている人物が、島田隆資が主張するような維新の志士ではないことが裏付けられました。

写真の真実

「フルベッキ群像写真」は、確かに歴史的に重要な写真であり、当時の日本の社会や教育、そして国際的な交流を示す貴重な資料です。しかし、写真に写る人物が維新の志士であるという説は、根拠のない誤りであり、現在では否定されています。

この写真は、フルベッキと致遠館の学生・教師たちの歴史的な瞬間を捉えたものであり、その価値は写真に写る人物が誰であるかという議論を超えて、歴史的な資料としての重要性を持ち続けています。その背景を理解し、正確な情報に基づいて考察することが重要です。

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