石丸安世

石丸安世

石丸安世（いしまる やすよ）は、天保10年（1839年）に生まれ、明治35年（1902年）に没した、幕末から明治時代にかけての佐賀藩士、官吏、政治家です。通称は虎五郎。工部省の初代電信頭として、東京-長崎間の電信開通という大事業を成し遂げたことで知られています。

生涯

佐賀郡本庄村に生まれた石丸は、20歳の時に幕府の海軍伝習所で学びました。当時から英語に堪能で、藩の貿易における通訳として長崎に赴任し、海外情報の収集も担当しました。文久3年（1863年）の下関戦争や薩英戦争では、英字新聞から情勢を読み解き、戦闘の状況や損害を正確に藩に報告しました。しかし、攘夷運動が盛んな時期でもあったため、過激派からは情報漏洩の疑いをかけられ、長崎奉行所に告発されたこともありました。

慶応元年（1865年）、石丸は同僚の佐賀藩士・馬渡八郎と共に、親交のあったグラバーの手引きで、貨物帆船チャンティクリーア号に乗り込みイギリスへ密航しました。当時の密航は死罪に値する行為であり、藩は二人を捜索しましたが、ほどなく打ち切られました。グラバーは後に、「鍋島直正公に頼まれて二人を英国に送った」と証言しています。この密航には、広島藩士の野村文夫（團團珍聞創刊者）も加わっていました。

イギリスではグラバーの実家があるアバディーンに滞在し、英語や数学のほか、造船や電信など最先端の技術を学びました。さらに2年後の1867年には、パリ万国博覧会に佐賀藩の代表として派遣された佐野常民らと合流し、博覧会をサポートしました。

帰国後、石丸は明治政府に入り、工部省の初代電信頭に就任しました。電線架設に必要な碍子をイギリスからの粗悪な輸入品から国産品に切り替えるため、有田の深川栄左衛門（香蘭社創業者）に磁器碍子の製造を依頼し、国産化に成功しました。また、「破天荒の大事業」と呼ばれた東京-長崎間の電信架設を推進し、情報インフラの整備に尽力しました。この功績により、鉄道の井上勝、郵便の前島密、電話の石井忠亮と並び、「逓信四天王」の一人と称されています。

その後、石丸は大阪造幣局長や元老院議員などを務める傍ら、私塾を開いて後進の育成にも努めました。高取伊好、志田林三郎、中野初子らは石丸の門下生です。墓所は青山霊園にあります。

栄典

1889年（明治22年）11月29日 - 大日本帝国憲法発布記念章
1890年（明治23年）6月19日 - 従四位
1894年（明治27年）5月21日 - 正四位

家族

石丸龍太郎 - 長男。日本競馬会理事。

その他

沖電気の創業者である沖牙太郎は、工部省時代の部下であり、石丸邸の長屋に最初の工場を開きました。
石丸が推進した東京-長崎間の電信は1873年に完成し、翌年の佐賀の乱鎮圧に大きく貢献しました。佐賀の乱の首謀者である江藤新平と島義勇は、石丸と同じく義祭同盟の一員として勤皇思想を語り合った同志でした。

参考資料

アンドリュー・コビング『幕末佐賀藩の対外関係の研究 : 海外経験による情報導入を中心に』（鍋島報効会、1994年）
『幕末佐賀藩改革ことはじめ』（佐賀新聞社、2004年）
* 『日本電信の祖 石丸安世：慶応元年密航留学した佐賀藩士』（慧文社、2013年）

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