致遠館

致遠館（ちえんかん）

概要

致遠館は、佐賀藩主・鍋島閑叟（直正）が、オランダ人宣教師のグイド・フルベッキを招き、1867年（慶応3年）に長崎に設立した英学を学ぶための藩校です。開校からわずか2年後の1869年（明治2年）に閉鎖されましたが、その短い期間に多くの優秀な人材を育成しました。

沿革

佐賀藩では、1840年代から蘭学の研究が盛んで、「蘭学寮」という教育機関を設けていました。しかし、1860年（万延元年）に、万延の遣米使節に参加した小出千之助の報告により、イギリスやアメリカから直接知識を学ぶ英学と英語学習の必要性が認識されるようになりました。

蘭学寮の教授であった小出千之助は、佐賀藩主の鍋島直正に英学教育機関の設立を提言。翌年、直正は秀島藤之助、中牟田倉之助、石丸安世の3人に英語学習を命じました。その後、石丸安世、大隈重信、江藤新平などの佐賀藩士が次々と英学研究に携わることとなりました。

1867年（慶応3年）、現在の長崎市五島町にあった佐賀藩諫早家の屋敷内（諫早家家臣の山本家屋敷）に「蕃学稽古所」が設置されました。鍋島直正は、蘭学寮で学んだ優秀な人材を選抜し、英語を学ばせました。こうして佐賀藩は、他藩に先駆けて英学校を創設したのです。

1868年（慶応4年）には、名称を「致遠館」と改めました。

佐賀藩は、16歳から30歳までの30人を学生として派遣しました。英語教師には、長崎にあった幕府の英学所「済美館」で教えていたオランダ人宣教師のグイド・フルベッキが招かれ、済美館と掛け持ちで英語を教えました。フルベッキは、一日おきに1～2時間ずつ、新約聖書とアメリカ合衆国憲法をテキストとして英語を教授しました。

鍋島直正は、副島種臣を監督に、小出千之助を教授に任命しました。致遠館では、欧米の政治制度や法制度に関する講義や議論が行われ、藩は原書を翻訳できる人材の育成を目指していました。しかし、実際には欧米の政治思想の研究が盛んに行われるようになりました。佐賀藩だけでなく、他藩からも学生が学びに来ており、最盛期には100名以上の学生が在籍していました。

フルベッキは、1869年（明治2年）4月に明治政府に招聘され上京したため、致遠館は開校からわずか2年でその活動を終えることとなりました。

主な学生

致遠館で学んだ主な学生は以下の通りです。

岩倉具定・岩倉具経（岩倉具視の子）
折田彦市
綾部新五郎
勝小鹿（勝海舟の子）
香月経五郎
相良知安（弘庵）
高峰譲吉
服部一三
福島九成
本野盛亨（周蔵）
山口尚芳（繁蔵）
山中一郎

備考

佐賀藩の藩校としては、他に弘道館（現・佐賀県立佐賀西高等学校）や好生館（現・佐賀県医療センター好生館）があります。

致遠館の跡地は、1910年に唐津の醤油醸造業者である宮島商店が買い取り、長崎支店を置きました。かつての致遠館の建物は、1966年まで社屋として使用されていました。

早稲田大学では、致遠館設立に大きく貢献した大隈重信の役割を高く評価しており、致遠館跡地には2002年に、早稲田大学校友会長崎支部の手によって「大隈の教育理念の原点」とする記念碑が建立されました。

1988年に佐賀市に設立された佐賀県立致遠館高等学校（現在は佐賀県立致遠館中学校・高等学校）は、致遠館の名を冠したものです。宮島醤油からは、藩校致遠館の鬼瓦が致遠館高等学校に寄贈されています。

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