ブイル湖

ブイル湖（ボイル湖）の概要

ブイル湖は、モンゴル国東部のドルノド県と、中華人民共和国内モンゴル自治区北東部のフルンボイル市にまたがる国境湖です。モンゴル語では「ブイル・ノール」、中国語では「貝爾湖」と呼ばれています。この湖は、歴史的文献にもその名が残されており、『元朝秘史』には「ブユル・ナウル」、『集史』には「بوير ناؤور」と記されています。また、明代には「捕魚兒海」、清代には「貝雨爾湖」とも呼ばれていました。「ブイル」はモンゴル語でオスのカワウソを意味し、かつてこの地域にカワウソが多く生息していたことに由来します。

地理的特徴

ブイル湖の面積は約615平方キロメートルで、その大部分がモンゴル領に属していますが、北西部の一部（約40平方キロメートル）は中国領となっています。平均水深は約8メートルで、ステップ地域に位置しています。この湖はモウコガゼルや236種以上の鳥類が生息する重要な生息地であり、2004年にはラムサール条約登録地となりました。

ブイル湖には、南東からハルハ川が流れ込み、北西角から烏爾遜河が流れ出てフルン湖へと繋がっています。ブイル湖はブイル・ノール窪地に位置し、近隣のフルン湖とともにフルンボイル草原の一部を形成しています。

歴史的背景

ブイル湖と隣接するフルン湖は、古くから遊牧民の生活を支えてきました。『元朝秘史』にも両湖が並んで記述されており、12世紀末にはフルンボイル地方がモンゴル高原東部で勢力を誇ったタタル部族の根拠地であったことが示唆されています。13世紀初頭には、テムジン（後のチンギス・カン）がモンゴル高原東部の諸部族を平定する際の拠点としても、この地がしばしば言及されました。特に、大興安嶺西麓を根拠地としていたカタキン、サウジウト、コンギラトなどの部族を平定する上で、この地域は重要な役割を果たしました。

モンゴル帝国統一後、大興安嶺西麓はチンギス・カンの兄弟たちの領地として分割されましたが、フルンボイル地方はテムゲ・オッチギンとその一族が領有していたという説が有力です。明代初期には、藍玉率いる明軍が北元のトグス・テムル軍をこの地で破り、多数の捕虜を得たという記録も残っています。

このように、ブイル湖は自然環境、歴史的背景の両面において重要な地域であり、その周辺は多様な文化と生態系が共存する場所として、現在も注目されています。

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