ブラジル高速鉄道

ブラジル高速鉄道計画（TAV）の概要

ブラジル高速鉄道（ポルトガル語: Trem de Alta Velocidade、略称TAV）は、リオデジャネイロとサンパウロを結ぶ高速鉄道計画です。当初は2014年のFIFAワールドカップに合わせた開業を目指していましたが、計画は大幅に遅延し、現在では2032年の開業を目標としています。

この計画は、2000年代のブラジルの経済成長に伴う航空インフラの逼迫、相次ぐ航空事故を背景に、鉄道輸送への期待が高まったことから始まりました。ブラジル政府は、この高速鉄道を主要都市間の移動手段として重要な役割を担わせることを目指しています。

当初の計画では、サンパウロからリオデジャネイロを結ぶ路線としていましたが、後にカンピーナスまでの約100kmの延伸が決定し、総延長は約518kmに及ぶ予定です。しかし、入札の遅れや、技術的な課題、資金調達の難航などにより、計画は何度も延期されてきました。

2023年2月には、国家陸運庁（ANTT）がTAVブラジル社との高速鉄道建設・運営契約を承認し、計画は新たな段階に入りました。しかし、実際の建設にはまだ時間がかかると見込まれています。

ブラジル高速鉄道の特徴

• - 総距離: 約378km
• - 総事業費: 約500億レアル（2023年11月時点のレートで約1兆3000億円）
• - 最高速度: 時速330km
• - 軌間: 1435mm（標準軌）

計画では、最高速度330km/hで走行し、リオデジャネイロとサンパウロ間を短時間で結ぶことを目指しています。

各国の動き

この高速鉄道計画には、多くの国の企業が関心を示しています。以下に主な国の企業連合とその動向をまとめます。

韓国

韓国の企業連合は、韓国鉄道公社、現代重工業、現代ロテム、サムスンSGS、LG CNSなど22社から構成され、当初は最も有力な候補と見られていました。韓国政府の支援を受け、韓国高速鉄道（KTX）の技術の初の海外輸出を目指していました。しかし、事業のリスクや採算性の問題から、最終的に入札を見送りました。また、KTXの安全性の問題も入札に影響を与えた可能性があります。

日本

日本の企業連合は、三井物産、三菱重工業、東芝、日立製作所から構成されています。日本の新幹線技術を売り込み、駅舎や関連施設の建設も視野に入れていましたが、需要予測の甘さやリスクの大きさから入札を見送りました。

フランス

フランスの企業連合は、アルストムを中心としています。アルストムはTGVの技術を持ち、ブラジル国内での実績もありましたが、やはりリスクを理由に入札を見送っています。しかし、後に一度だけ応札したとされています。

スペイン

RENFEとCAF、イネコが合同で受注を目指しています。広軌の在来線を活用する場合、タルゴの技術が有利になる可能性があります。しかし、列車事故の影響で、入札資格を取り消される可能性もありましたが、ブラジル政府の配慮で回避されました。

その他

ドイツのシーメンス社、イタリアのアンサルドブレーダ社なども参入意欲を示しています。中国は当初関心を示していましたが、採算性の問題から撤退しています。

計画の問題点

この計画は、多くの課題を抱えています。

地理的条件

リオデジャネイロとサンパウロ間の地形は複雑で、急斜面や山脈、川などが存在します。これにより、トンネルや高架橋の建設が必要となり、建設費が増大する可能性があります。また、沿線には工場地帯が広がり、用地買収も困難が予想されます。

40年間の運営

落札企業には40年間の運営が求められます。また、運賃の上限も定められており、ブラジル政府の需要予測が甘いことや、用地買収の困難さなどから、収益性が低いと見られています。これが各国企業が慎重な姿勢を見せる大きな理由となっています。

入札の遅れ

これらの問題から、入札は何度も延期されてきました。2011年には応札企業がなく、入札自体が凍結される状況に陥りました。ブラジル政府も条件を譲歩しないため、計画は難航しています。

ブラジルの政治・経済情勢

2013年のブラジル抗議運動では、都市交通の改善を求める声が高まりました。これにより、高速鉄道よりも都市内交通の整備が優先される可能性も出てきました。また、関連企業のカルテル疑惑なども、計画に影響を与えています。

歴史

• - 2006年：航空事故や航空管制トラブルが多発し、高速鉄道構想が本格化。
• - 2007年：航空機事故が相次ぎ、高速鉄道の必要性が高まる。
• - 2008年：日本でセミナーを開催。
• - 2009年：事業採算性報告書が提出。
• - 2010年：初の入札公示。2011年着工、2016年リオ五輪前の開業を目指す。
• - 2011年：入札は延期を繰り返す。
• - 2012年：事業計画素案を公表。上下分離方式に変更。
• - 2013年：入札条件を緩和するも、入札は再び延期。
• - 2023年：TAVブラジル社と契約締結。

競合交通機関

高速鉄道開業後の主な競合交通機関は以下の通りです。

航空機

リオデジャネイロ - サンパウロ間は航空便が主流であり、シャトル便で多くの乗客が移動しています。所要時間は約50分と短く、高速鉄道にとっては最大のライバルとなるでしょう。

長距離バス

バスは時間がかかるものの、運賃が安く、価格競争力があります。

出典

* （ポルトガル語）ANTT(ブラジル陸運庁)-TAV

関連項目

• - ブラジル
• - ブラジルの鉄道
• - 高速鉄道

もう一度検索