ブラック・バード (ドナルド・バードのアルバム)

『ブラック・バード』 (Black Byrd)

『ブラック・バード』は、アメリカ合衆国の著名なジャズトランペット奏者、ドナルド・バードが1973年にリリースしたスタジオアルバムです。この作品は、1972年に録音され、彼のディスコグラフィーの中でも特に革新的で、キャリアの方向性を大きく転換させた重要作として位置づけられています。

制作背景とサウンド

本作のサウンドは、当時モータウン・レコードで辣腕を振るっていたフォンス・マイゼルと、その弟ラリーによるマイゼル兄弟が全面的に参加したことによって形作られました。彼らはプロデューサーおよびアレンジャーとして、従来のドナルド・バードのジャズサウンドに、当時のソウルやファンク、R&Bのエッセンスを大胆に導入しました。この融合により生まれたのは、それまでのジャズの枠に収まらない、グルーヴィーでキャッチーな音楽性です。

特に、このアルバムは、ジャズミュージシャンが当時の活気あるファンクのスタイルをこれほどまでに深く、意識的に取り入れた初期の例とされています。批評家からは、マイルス・デイヴィスが同時期に探求していたようなダークで実験的な「ジャングル・ファンク」とは異なり、『ブラック・バード』の音楽は、明るく、ポジティブで、そして何よりも「踊れる」サウンドであると評されました。このアプローチは、より幅広い層のリスナーにアピールすることに成功しました。

商業的な成功

『ブラック・バード』は発表されるや否や、商業的に目覚ましい成功を収めました。アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200では最高36位にランクインし、これはドナルド・バードにとって初めての全米トップ40入りという快挙でした。さらに、ジャズ・アルバム・チャートでは自身初の1位を獲得。R&Bアルバム・チャートでも2位を記録するなど、ジャンルを超えた人気を証明しました。

また、アルバムからのタイトルシングル「ブラック・バード」もヒットし、ビルボードのR&Bシングル・チャートで19位に達しています。

評価と後世への影響

本作はその革新性と商業的成功が評価され、音楽業界の権威ある賞にもノミネートされました。第16回グラミー賞では、最優秀R&Bインストゥルメンタル・パフォーマンス部門にノミネートされています。

音楽評論家のスティーヴ・ヒューイはオールミュージックのレビューで本作に満点の5点を与え、「バードは本作でジャズ・ミュージシャンとしては初めて、当時のファンクの、祝祭のごときサウンドとスタイルを全面的に取り入れており」「明るく爽やかで踊れる音楽性となっている」と絶賛しました。彼はまた、『ブラック・バード』がバードのキャリアにおいて「大きな転機となった重要作」であり、その後の『ストリート・レディ』や傑作と名高い『プレイシズ・アンド・スペイシズ』といったアルバムで、このファンクやフュージョン路線がさらに発展、洗練されていったと指摘しています。

『ブラック・バード』の音楽性は、後世のアーティストにも影響を与え続けています。例えば、2013年にはカナダのシンガーソングライター、レミー・シャンドが本作に収録されている楽曲「ホエア・アー・ウィ・ゴーイング」をカバーし、話題となりました。

収録曲

アルバムは以下の7曲で構成されています。特記がない楽曲はラリー・マイゼルが作曲しています。

1. フライト・タイム - "Flight Time" (8:32)
2. ブラック・バード - "Black Byrd" (7:22)
3. ラヴズ・ソー・ファー・アウェイ - "Love's So Far Away" (6:05)
4. Mr.トーマス - "Mr. Thomas" (Larry Mizell, Warren Jordan) (5:07)
5. スカイ・ハイ - "Sky High" (6:00)
6. スロップ・ジャー・ブルース - "Slop Jar Blues" (5:43)
7. ホエア・アー・ウィ・ゴーイング - "Where Are We Going?" (L. Mizell, Larry Gordon) (4:37)

主な参加ミュージシャン

ドナルド・バード: トランペット、フリューゲルホルン、ボーカル
フォンス・マイゼル: トランペット
ラリー・マイゼル: ボーカル、アレンジ
ロジャー・グレン: フルート、アルトフルート、サクソフォーン
ジョー・サンプル: ピアノ、エレクトリックピアノ
フレディー・ペレン: エレクトリックピアノ、シンセサイザー、ボーカル
ディーン・パークス: ギター (#1, #4)
デイヴィッド・T・ウォーカー: ギター (#2, #3, #5, #6, #7)
ウィルトン・フェルダー: エレクトリックベース (#1, #4)
チャック・レイニー: エレクトリックベース (#2, #3, #5, #6, #7)
ハーヴィー・メイソン: ドラムス
ボビー・ポーター・ホール: パーカッション (#1, #4)
* ステファニー・スプルイル: コンガ、タンバリン (#2, #3, #5, #6, #7)

『ブラック・バード』は、ジャズの伝統に根ざしながらも、時代の最先端を行くサウンドを取り入れた作品として、ドナルド・バードのキャリアにおける頂点の一つであり、その後のジャズファンクやフュージョンの発展に大きな影響を与えた名盤として、今日でも高く評価されています。

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