ブロッキング (インターネット)

インターネットブロッキングとは

インターネットブロッキングとは、インターネットサービスプロバイダ（ISP）などが、インターネットを介して送受信される情報を監視し、特定のウェブサイトやコンテンツへのアクセスを偽装、拒否、または遮断する技術です。この技術は、インターネットブロッキング（Internet Blocking）や強制遮断措置とも呼ばれています。

ブロッキング導入の背景

近年、著作権を侵害する海賊版サイトが問題視されており、運営者の特定が困難なため、著作権者などの権利が損なわれる事態となっています。このような状況から、ブロッキングの導入が検討されるようになりました。ブロッキングは「通信の秘密」を侵害する可能性も指摘されていますが、侵害コンテンツの量が膨大で、他の方法での保護が難しい場合に、緊急避難として違法性が阻却されるとの見解もあります。実際に、児童ポルノを配信するサイトに対しては、すでに一部のISPで遮断措置が実施されています。

一方で、ブロッキングは悪用される懸念もあり、その導入には反対意見も多く存在します。

ブロッキングの技術

ブロッキングには、主に以下の4つの技術が用いられます。

1. DNSポイズニング（DNSブロッキング）
- ユーザがURLをDNSサーバに問い合わせる際に、応答を拒否したり、偽のIPアドレスを返したりすることで、目的のサイトへのアクセスを妨害します。
- ハッキングやDNS偽装などによる攻撃も存在します。
- ブロッキング単位はドメイン名です。
- IPアドレスを直接入力することで回避可能であり、またDNSサーバを切り替えることでも回避できます。
- 適法な情報までブロックしてしまうオーバーブロッキングのリスクがあります。
- 設定箇所が少なく、リストの更新が容易なため、ISPの投資負担は少ないです。
- イタリア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オランダ、デンマークなどで実施されています。

2. パケットフィルタリング方式
- 通信パケットの宛先や内容を解析し、特定のパケットを破棄する方式です。
- ルータによるフィルタリングや、より詳細な解析を行うディープパケットインスペクション（DPI）があります。
- ブロッキング単位は、ルータフィルタリングではIPアドレス、DPIではURLです。
- IPアドレスベースの場合、適法情報もブロックしてしまう可能性があります。
- フィルタリング設定によっては、ブロッキングを回避される可能性もあります。
- 導入には既存機器を使用できる場合もありますが、DPIは投資負担が大きいです。
- 韓国などで実施されています。

3. プロキシ方式
- プロキシサーバを介して通信を行い、URL単位でアクセスをブロックする方式です。
- ブロッキング単位はURLです。
- プロキシの設置場所によっては、ブロッキングを回避される場合があります。
- 数十万件のリストを運用できます。
- 運用は比較的容易です。
- プロキシサーバなどの設備投資が必要です。

4. ハイブリッドフィルタリング方式
- 特定のパケットを抽出した後、URL単位でブロックする2段階の方式です。
- 経路制御とプロキシ方式の組み合わせや、DNSポイズニングとプロキシ方式の組み合わせなどがあります。
- ブロッキング単位はURLです。
- プロキシの設置場所やIPアドレス直打ちで回避される可能性があります。
- 数十万件のリストを運用可能です。
- IPアドレス部分の管理が複雑になる場合があります。
- プロキシなどの投資が必要です。
- イギリス（Cleanfeed）、カナダは経路制御とプロキシ方式、オーストラリアはDNSポイズニングとプロキシ方式を組み合わせています。

各国のブロッキング状況

2017年9月時点で、世界42カ国でブロッキングが導入されています。

- ヨーロッパ: オーストラリア、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ギリシャ、アイスランド、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スペイン、イギリス、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、エストニア、ドイツ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、スロバキア、スロベニア、スウェーデンなど、多くのEU加盟国で導入されています。しかし、EUの指令に対応しているものの、実際にブロッキングを実施していない国も存在します。
- アジア: インド、インドネシア、イスラエル、韓国、マレーシア、シンガポール、タイなどで導入されています。中国では、グレートファイアウォールにより大規模なネット検閲が行われています。北朝鮮では、外部インターネットへのアクセスが厳しく制限されています。
- その他: アルゼンチン、メキシコ、リヒテンシュタイン、ポーランドなどでも導入されています。
- アメリカ: サイトブロッキングは導入されておらず、IP推進法によるドメインの没収や差押えで対処しています。

各国の事例

- イギリス: Internet Watch Foundationがアドレスリストを管理し、レイプレイなどの海賊版サイトに対するブロッキングを行っています。
- カナダ: Cybertip.caと協力し、児童搾取コンテンツをブロックするCleanfeedプロジェクトを実施しています。
- ニュージーランド: 政府がネット検閲を推進しています。
- オーストラリア: 児童虐待サイトへのアクセスを自発的にブロックしています。
- 日本: 児童ポルノや海賊版サイト対策として、民間企業によるブロッキングが推進されています。
- 韓国: 北朝鮮関連機関へのアクセスをブロッキングしています。
- フィンランド: 児童ポルノ対策でブロッキングを行っていましたが、オーバーブロッキングの問題も発生しました。
- スウェーデン: 児童の性的搾取対策としてブロッキングを推奨しています。
- イタリア: インターネット上の児童ポルノ対策としてブロッキングを実施しています。
- ノルウェー: 北欧で最も早くDNSブロッキングを実施しています。
- デンマーク: 海賊版サイトへのトラフィックが増加しています。
- ドイツ: 一部のポルノサイトへのアクセスを遮断しています。
- フランス: 裁判所の命令でISPがDNSブロッキングを実施する義務があります。
- オランダ: 海賊版サイトへのアクセスが減少したものの、VPN経由でのアクセスが懸念されています。

課題と展望

インターネットブロッキングは、違法コンテンツ対策として有効な手段となり得る一方で、表現の自由や通信の秘密を侵害するリスクも伴います。過剰なブロッキングは、適法な情報へのアクセスを妨げ、情報統制に繋がる可能性もあります。今後、ブロッキング技術の導入と同時に、その運用方法や影響について、より慎重な検討と議論が必要となるでしょう。

また、技術的な面では、ブロッキングを回避する手段も常に開発されており、技術の進歩に対応した対策が求められます。国際的な協力体制を構築し、各国の状況や法制度を踏まえた上で、バランスの取れたインターネット環境の構築を目指す必要があります。